二階の食堂へ行った。

セルフサービスである。調理されでき上がったおかずが皿に盛られ、ガラス棚に並べられていた。晴美は身長一六〇センチ、六二キロの体重で太っている訳でもなく、痩せている訳でもなく、ちょうどいい体格をしている。普段から体をよく動かすので、まだ「食欲の秋」にもなっていないのにお腹がすぐに空く。

この日話し合いをしている最中もお腹の虫がぐうぐう鳴っていた。晴美はこの少し大きい音をひたすら引っ込めるために必死だった。が、あの緊張の中ではさすがにお腹の虫も静かにしていてくれた。

よかった……。

ほっと安堵したのもつかの間、二階の食堂へ向かうや否や、お腹の虫はショック療法を受けたようにいきなり目を覚ましてしまった。

「あれ、誰のお腹の音だぁ――」

若白髪がいちばん最初に気がついた。晴美はちょっぴり慌てたが、照れながら両手でお腹を抑えた。

「なんだ。井意尾くんか……いいことだよ。元気な証拠だもんね」

若白髪は茶化すというより、逆に感心したように言った。

晴美はその言葉で嬉しくなった。エレベーターを使う者もいたが、たった一階下だからと、メンバーの殆どが階段で下りた。晴美ももちろん階段を利用したが、後ろから下りてくる普段着はいかにも医師らしく言った。

「晴美くん。お腹が空くことはいいことだよ。話し合って頭を使うからお腹もそれに反応するんだよ。頭を使っている証拠だね。それに、健康体ということを表しているんだよ。すごい、すごい」

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