でも、母は、「アカンって、この前から言っているやろ」とだけしか言わなかった。すごく悔しかったが、僕は諦めなかった。

そこで、僕は通院していた病院の先生に聞くことにした。その先生は40代の男性で、髪型は七三分けで眼鏡をかけており、いつも冗談ばかり言っていた。いつものように、胸や背中の音を聴診器で聞き、両顎の下を触り、舌を舌圧子(ぜつあつし)で押さえ、「あー」と声を出して喉元を見るというルーティンが終わってから、思い切って聞いてみた。

「ねえ先生、僕、野球やっていいよね」 

すると、横で僕のシャツをたたんでいた母親が、「ちょっと、順也」と、僕と先生の間に割って入ろうとした。

先生は母に目を向け、軽く頷いたように見えた。そして先生は僕の方を一度見てから、いきなり腕組みをして下に視線を落とし、「うーん」と大きな声を上げた。

どれくらい下を向いていただろう。しばらくして、先生はパッと顔を上げ、僕と同じ目線になるように座り直して、こう言った。

「野球か、うーん。今は、やめとこか」

そして、先生は続けた。

「田中君の病気は、大人になれば治る病気やから、いい子にしていたら良くなるよ」と、丸坊主の僕の頭をやさしく撫でながら言った。