三章「ロマンシング・デイ」当日、彼らは帰ってくる

ライトとリリーの二人と共にリビングへ戻るとテーブルには肉料理を中心にたくさんの料理が並んでいた。先に座っていたドランとトラヴィスは小学生の時と変わらないはしゃぎようだ。

見たこともない料理がキッチンから運ばれてくるのを見てはソースの原料の当て合いや肉のどこの部位を使っているのか話し合っている。しかし大抵の料理は各地でおいしいものを食べてきているドランが料理名をあてていた。

「ステファニーが朝から下ごしらえをしてくれていたからたくさんの料理ができたわ。デザートも合わせて十五品、これで料理が出来上がったよ」とエマが最後の一品を持ってきた。

エマはリリーの姿を捉えると近くまで寄って何かを耳打ちをしていた。リリーはそのあとに微笑んで何かに同意したみたいだった。

リリーは「あら、」とエマと同時にリビングに入ってきたステファニーを凝視している。ステファニーはリリーからの警戒心丸出しの視線を逸らすことなく「私はステファニーよ。よろしくね」気さくに話しかけた。

その気さくな態度はリリーの心の扉を開く鍵となった。

リリーは「ライトもステファニーちゃんにちゃんと自己紹介をしなさいよ」とライトに促すが「なぜご近所さんに挨拶をしないといけないの?」といい返した。

リリーはライトが人見知りを隠すために、近所に住んでいる親しい人という冗談をいっていると勘違いしているらしい。

「人見知りでも今自己紹介して仲良くしておかないとずっと気まずくなるわ。私は気を使いたくないから仲良くして」

ライトはリリーの真剣な顔を見て笑いをこらえている。

「冗談なんかじゃないよ。俺とステファニーは本当に隣に住んでいるんだ。つまり、ステファニーの夫のギルバートと同じ地価のところに僕の家もあるんだよ」

同じ地価、という部分は意識的だろう。第一歩兵部隊一斑の俺と張り合っているのがバレバレだ。

リリーは目を丸くして「そうなのね。通りでライトとステファニーちゃんが初対面の感じがしなかったわけだ」と納得したようだ。

ライトは「リリーだけが驚いているようだが、僕も驚くことがあったよ」とステファニーをみていう。

「どうして?」

「ステファニーちゃんは初対面の人には年下でも敬語から入っていく人柄だったけど、初めてリリーと会った時はとても人懐っこく接していたから疑問に思ったんだよ」

一切料理に手をつけないマリッサは「お二人さんがくる前にステファニーがライトのことを親しげに呼んでいたからウチらもタメ口でいくことにしたの」といって赤色のドリンクを流し込む。

「それはいいアイデアだね。これからステファニーちゃんじゃなくて、ステファニーと呼ばないとね」

再び初めの不安を抱いていたのが嘘のように解消された。快くステファニーを迎え入れてくれた皆には俺からも感謝をしなければならない。

それにしても皆本当にいい人たちだ……。

これで俺の家に九人全員が帰ってきた。皆が集まるのは何年ぶりだろう。懐かしい再会である。しかし、初めの不安は解消されたはずなのにまだ心がモヤモヤしている。何かが起きようとしていると感じ取っていたが、皆にはいうまでもないだろう。