四章 終の住処

話し相手がいない俺の頭には、再びトラヴィスの問題が浮かびあがってくる。トラヴィスが語ろうとしていた言葉を思い返してみる。トラヴィス個人との問題で起きていることを聞き出すために、役員会が目指す理想の姿は何かと遠回しに質問をした。

トラヴィスは、モンスターペアレントにならず、教師を信じて教育を任せることが大切だと話していた。途中で話を遮られたので答えは聞き出せなかったものの、何かがわかった。

教師の視点だとモンスターペアレントというのは非常に厄介な問題なのだろう。

トラヴィスの性格からしてみれば、自分以外の教師がモンスターペアレントといざこざがあっても気にせず学校全体の問題は他人ごとと処理するはず。つまり、役員会はトラヴィス教師に抗議をしていたということだ。だからトラヴィスは難し気な表情を浮かべていたと考えられる。

トラヴィスが直接関わってくるなら、さらに真実を明かしたくなる問題だ。もしかして、ストレス発散するために生徒に当たる行為が大きな問題に発展して役員会に知られたのではないか。だとしたら大問題だ。トラヴィスに抗議してくるのは親として当然の務めだ。

この場合モンスターペアレントと呼ばれる要素はどこにもない。モンスターペアレントといったのは咄嗟に自分を正当化して疑いをそらしているからなのかもしれない。

お皿にあったはずのレーズンパンがもうなくなっていた。考えことをしていてすっかり完食していたことに気づかなかった。ふと、レーズンパンは本当に失敗作なのか疑問に思った。おいしくなかったら、考えごとをしていても味の違和感に気づくはずだ。

リビングに戻り、もう一つレーズンパンをバケットから直接口に運んだ。しかし、どうしても失敗作には思えない味だ。「ねぇ、これのどこが失敗作なの。おいしいよ」ステファニーが作ったからかばっているのではない。

「だってそれレーズンが入ってないのよ。レーズンが入っていないのに、それをレーズンパンと呼べるの?」確認してみると、確かにパンにはレーズンが入っていなかった。

「料理中にレーズンを入れ忘れるステファニーと、食べていても気づかないギルバートはおそろいの夫婦ね。うらやましいわ」ヘラは独身者がいいそうなセリフでいじってきた。

エマにいじられるのは気にしなかった。ところが、このやり取りをトラヴィスに聞かれてしまった。

大好物だったのだろうか、油だらけの皿に沢山盛ったポテトを置いて「おい、皆きいたか。ギルバートの味覚がおかしくなってしまったようだぞ。しっかりしてくれよ。近くに味覚を治す病院なんてないぞ」といい、例の時間が始まった。