他の人たちは誰も笑わない。「いいかげんにしたら。トラヴィスのからかい方は人を不快にさせるのよ」エマが切り出した。
「なんだそれは、俺以外がからかっていた時は何もいわなかったじゃないか。他の人がからかうのはいいのか。それは差別だ」
「からかい方が本音に聞こえるのよ。冗談と本音をわきまえたらどうなの」マリッサも援護する。
「そういえばトラヴィスは隣の家もばかにしていたよな」
「そうだよ。留守なのにカーテンが全開なのはおかしい、わざわざ部屋を見せているようだ。隣がいなければここの立地は最高だっただろうによ。ギルバートは惜しい所に家を建てたな、きっと隣の家は変人が住んでいる」
俺はトラヴィスを変人扱いしていたことを思い出した。変人なのはお前の方だろ。隣の住民と比べるまでもない。
「変人で悪かったな」トラヴィスはぎくりとした様子で声の主の方へ視線を向けた。
「トラヴィスは僕のことを変人だと思っているのか」
「どうしてライトが変人になるんだ。たまたま『変人』と話した時、ライトの方に視線をやったからって変人と勘違いされるのも……。もしかして!」
「そうだよ、僕が隣に住む変人だ」
「いや、待ってくれよ。ライトがリリーに説明していた、ギルバートとは近所にすんでいるっていう話はギルバートの隣だったということか?」トラヴィスは両手をわざとらしく天井にむけてオーバーリアクションを取る。
トラヴィスはわざとらしく咳き込んで時間を稼ぐ。
「カーテンが全開だったのは、ライトのことだから何らかの理由があってのことだよな。ライトがわざわざギルバートの隣に家を建てて、日当たりを悪くする嫌がらせをしたとでもいうのか」
「ライトが嫌がらせをするわけないだろう。俺がこのようにしてくれと頼んだ」
さっきまでどこの会話にも入れなく、独りぼっちでレーズンが入っていない、ただのパンを食べていたのが、今や全員を巻き込む会話の中心にいる。
「ギルバートが頼んだならそれを早く教えてくれよ。そうしてくれたら悪口をいわずに済んだのに」
「教えようとしたけど話を遮ったじゃないか」
「誰が遮った?」トラヴィスは全く悪気がないようだ。
「お前だろ」何人かとセリフが被った。
ヘラは苦笑いして「ギルバートとライトの仲がとてもいいのは知っているけど、何も隣に家を建てる必要はないでしょ」という。
「ヘラのいう通りよ。さすがに引いちゃうわ」とリリーも苦笑いをした。
女性陣はリリーの意見に深く頷く。偏見もいいとこだ。まだ何も説明をしていないのに勝手に引かれてしまっては困る。
【前回の記事を読む】不安は解消されたはずなのにまだ心がモヤモヤしている。何かが起きようとしているのかも