四章 終の住処

俺はドランの偉人という言葉に強い怒りで反応をした。「偉人は苦労だけじゃあなれない。世間に憧れる存在と思われているが、偉人だって誰にも聞かれたくない弱みくらい抱えている。それがどのぐらい生活に支障をきたしているか、指揮者のドランにはわからないだろ」

つい、俺は熱くなってしまった。ほとんど怒ることのない俺を見て皆驚いていた。

「バート? 大丈夫なの」そうだ、ここにはステファニーもいたのだ。怒ったところをステファニーにみせてしまった。

さらにこの場には、隠しごとをしないと約束したライトがいる。幸いにも俺が怒ったせいでセリフは頭に入ってこなかった様子だ。

「ごめん感情的になりすぎた」俺も驚いていた。理性という殻で怒りを抑え込むことが出来ていなかった。

俺は感情を抑えて話しを続ける。「ドランの方が偉大な功績を残している。さっき俺を褒めてくれていたよな。とても嬉しかったけど、長い間才能と努力を上手く融合をしてきたドランは本当に素晴らしいよ。ずっと勝てないと思っていたのは俺の方だ」

「現に命に狙われているギルバートがいる。それにセンター国以外の国に悪者にされている。俺は少しでも俺に対する世間の評価が低いだけでも落ち込んでしまうのに、それに耐えられるギルバートは凄いよ」

俺が本当に逃れたいものはそんなちっぽけなことではない、といいたいのを抑えた。

「オーケストラのリーダーのドランや社長のマリッサのように、次々に貢献していくことは心から素晴らしいことだし、誇り思っている。世間では有名ではない人たちもいるけど、間接的にはセンター国の経済効果を生み出している影の偉人だ。

世間に名が知れ渡っていない人たちこそが、国を支え、未熟な偉人を育てていく。このような人たちが真の偉人ともいえる。

でも、共通して素晴らしいことは、何も隠蔽する事実がないことだね。ドランとマリッサには、このまま正しいことだけを貫いていける偉人になってほしい。俺には戦争の事件を取り消すことはできない」俺の本心から出た言葉だ。

その時だった。俺以外八人が一斉に下を向いてだんまりした。それぞれが何か思い返しているような目をしていた。俺は逃れたいことがそれぞれにあるのかもしれないと思ったが、蒸し返すのは避けたかったので思いとどまった。