四章 終の住処
「おかしな先入観をそれぞれ持ってしまってはバートからの説明にも説得力が出てこなそうね。私がこのようになった経緯を説明しましょうか」
「あぁ、頼むよ」俺はステファニーに向かって両手を合わせた。「今から話すのは兵士を終えてから結構後の話だ。いいか、偏見を持った君らにステフィーが真相を話してくれるぞ。しっかりと耳を傾けろよ、特にトラヴィスな」
トラヴィスは目を細め、片側の口角だけを上げた。
ここへ越してくる前は別の家で暮らしていた。他の家庭と変わらない、ごく普通の新婚生活を過ごしていた。
体が衰えるのには抵抗があるので、結婚してからもよく散歩をしていた。俺は、次第に行動範囲が広くなっていった。そのため帰ってくる時間が徐々に遅くなってきていた。
ある日、俺は午前に外出してから日が落ちても帰らなかった。遠くの町まで出かけているのだろうとステファニーは心配しないでいたらしい。
毎日夕食を食べる二十時になっても帰ってこなかったため、ついにステファニーは俺を探しに家を出た。散歩のルートを把握できていなかったらしく、どこへ行けば良いのかわからなかった。
しばらくしてステファニーが家に戻ってみても、帰ってきた痕跡もない。
「なぜギルバートは帰らないの」とステファニーは生きたここちがしなかったという。
ステファニーは親しい警察官のジャックに連絡をした。ジャックはステファニーとギルバートの両方共面識がある珍しい人でもある。ある時に俺とステファニーが、ある国の集団から追いかけられていた時に救ってくれたことをきっかけに仲が良くなり、三人で酒を飲みかわす仲になっていった。
そのジャックとの出会いの話は長くなるので、ステファニーが皆に説明する時は上手く介入して不自然に思われない程度にやり過ごす。
ステファニーが「バートが行方不明」と言ったらジャックは急いで駆けつけてきてくれた。ジャックは左目に大きな傷がある。毎回ジャックと再会するたびに傷をいじるのがお決まりだが、この時はいきなり本題に入ったらしい。
ジャックが何気なく発した「今日は不運だ。ついさっき道端に身元不明の男が倒れていたという通報も入ってきた。ギルバートさんも行方不明になるなんて……」という言葉にステファニーは胸中がざわつき「その人がバートだったらどうするのよ、その人の特徴とか聞いていないの?」とジャックに襲いかかりそうな勢いで問いかけた。
ステファニーの気迫にひるんだジャックは声を震わせて「現場の警官によると、体つきからしてスポーツ選手じゃないか、とかいっていたな……」と話していたが急にジャックもハッとしたらしく、警察無線で交信を始めた。警察無線によるとその男は病院に運ばれたという。
「その病院はどこなの」次はジャックの制服に強くしがみついたみたいだ。普通なら公務執行妨害といったところだ。警察官が友人でよかった。