その点、あずみは見た目慎重派といえば聞こえはいいが、つまりは迷いが多い。小心者なのである。真琴のようにスパッと割り切って考えることができない。だから、お互いのないところに惹かれている者同士、案外うまく折り合いがついてつきあっているのかもしれない……。

 

さて、ふたりの分析はさておいて……。改めて登場人物の紹介。

 

今、桜を眺めながら人物分析をしているのが、M医科大学看護学部に通う篠原あずみ。そして、先ほど全力疾走していったのが、同級生の櫻井真琴。

 

真琴の家は全国的にも有名なアパレルメーカーを経営しており、いわゆるお金持ちのお嬢様だ。創業者であった父親は、約半年前、不幸な事故で亡くなった。今は、真琴の兄が、若いながらも父親の事業を継承している。

 

そして、あずみはといえば……。とりあえず一般的な庶民の家庭の生まれなのだが、ひとつ普通でないのは、両親と姉がすでに亡くなっていて、現在あずみを扶養し一緒に暮らしているのは、姉の配偶者で刑事の義兄ということかもしれない。

 

普通は一緒に暮らすのは難しい間柄だが、なんとかそのあたりもうまい具合に折り合いがついている。義兄が刑事などという忙しい職業であることが、かえって、あずみとの距離をバランスよく保っているのかもしれない。ちなみに、義兄の名前は芦原啓介という。