奈良編
古き仏を訪ねて 2015年10月13日(火)~ 15日(木)
10月14日
唐招提寺(とうしょうだいじ)
唐招提寺はあの鑑真の寺である。奈良時代、戒律を伝えるため唐の僧鑑真によって創建された。「戒」とは仏教徒としての個人が守るべき道徳的な戒めで、「律」とは出家者が守るべき生活上の規定である。
当時はもちろん、海を渡ることは命がけであった。鑑真はたびたびの失敗を繰り返し、12年の歳月をかけてようやく日本に来たという。66歳。鑑真は老齢であった。この鑑真の情熱と使命感はいったい何だろう。凡人の私の想像を超えている。
南大門を入れば正面に金堂が建ち、白い玉砂利に木立の影が広がる。この明暗のコントラストが美しく、人が少ない境内には静かな時が流れている。
金堂は奈良時代の建立で、現存する天平建築の金堂としては唯一のもので国宝である。前面に8本の円柱が並び、金堂の威容を演出している。
〈わが古寺の円柱は云うまでもなく木造であるから、光りを反射することは少ない。むしろ光りを吸収して、柔くその木目のあいだに湛えると云った方がいいようだ〉。引用の引用であるが、亀井勝一郎著『大和古寺風物誌』(新潮社,1953年)に載る唐招提寺についての文章の一節である。
金堂の須弥壇(しゅみだん)には3~5メートル級の三尊、盧舎那仏(るしゃなぶつ)、千手観音菩薩、薬師如来が梵天と帝釈天(たいしゃくてん)を従えて立ち、周りを四天王が護る。これらはすべて国宝である。中でも盧舎那仏、千手観音の重量感は圧巻で、それに圧倒されて三尊の中で一番小柄な薬師如来は目立たない。