「世界に冠たる企業だけあって、トップの執務する場所はさすがにすごいなぁ」と、驚きを隠さずにはいられなかった。あちらこちらを見回しているうちに、落ち着いた色合いのスーツを着こなした女性が現れた。

「こちらの部屋でお待ちください」

ソフトな物腰で勧められた。少し前の人事部の対応と同じであった。これから何が起こるのかと思いを巡らせた。

渉太郎は法務部を経て、ポータブル機器事業部で製品企画、海外マーケティング、海外事業戦略の仕事に従事した。北米での売れ行きに貢献したことから、今後最も需要が見込める中国市場の事業戦略責任者となっていた。同期入社の中でも早くに管理職になっていた。海外法人からの評判もよく、仕事への自信を深めていた。

この場所はきっと世界各国の要人も訪れる場所に違いないと思うと、これから先に何があっても動じずに、ありのままの自分でいようと腹が据わった。部屋の扉が静かに開かれた。

「会長が入られます」

秘書らしい女性から伝えられた。渉太郎は端座して一頻り扉を見つめた。しばらくの後、最初に部屋に入ってきたのは部長クラスらしき人物であった。その後少し遅れて、ゆったりとした足取りで入って来られた方が、「会長だ」とすぐに理解すると、渉太郎は思わず椅子からさっと立ち上がった。

会長が席に着くのを見届けると、「まぁかけなさい」部長に促された。

「失礼します」と、言ってテーブルに腰を下ろした。

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