もんじゃ焼きだけは、お客さんのテーブルでつくるのだが、お客さんの中に作れる人がいなかったり、自分たちで作るのがめんどうくさくて作ってくれと頼まれたりしていたので、もんじゃ焼きの時は、お母さんも、カホも大変だった。むろん塾なんか行く時間はない。
僕が塾に行かなかったのは訳がある。というか実は一回塾には行っている。学歴社会なんか、もうとっくのとうに崩壊していると言うのに、大学を出ていない父さんは僕には塾に行って欲しいと言った。それで塾に行ったまでのことだ。
はじめっからやる気がないから、そのうち「行ってきまぁす」と言っては、塾に行かず、どこかに遊びに行くようになった。
ある日、学校から帰ると工場で手伝いをしていた母さんから呼ばれた。その時だけは、どういう訳か、工場の中に来いと言われ、僕は黙って母さんがいるところに行った。
「お前、なんで呼ばれたか分かるか?」
僕は内心もしかしたら、塾に行っていないのがばれたかと思い、冷やっとしたが「いや、わからないよ」と言った。
その瞬間、初めて母さんは僕の頬をたたいた。そしてしばらく何も言わず、黙ってまた機械の側で包装紙を切りながら
「今日、塾の方から電話があったんだ。お前、塾に最近行ってないんだって? 月謝がもったいないから、続けるかどうするか、聞かれたんだよ」
そう言って母さんは僕の方は見ずに、ハサミで紙を切りながら黙っていた。僕はぐうの音もでなかった。父さんの方を見ると相変わらず黙って機械を回していて、僕の方は見ていなかった。ふと母さんの横顔を見ると涙が流れていた。