一
祭りの定番のお面や綿菓子は必須の買い物だった。ことに夏の隅田川の花火大会の時は祭りそのものだった。遠くから人がこんなにもいたのかと思うくらいやってきて街を占領した。
父さんの知っている人の高い建物に、みんなで押し寄せて窓から花火を見せてもらった。目の前に繰り広げられる花火は、まるでこの世の美しさを束にしているかのように何回も何回も僕を魅了した。父さんや母さんが僕に話しかけても僕は上の空だった。
「ター坊、ター坊!」
「待ってよ、振り向いたら花火を見過ごしてしまうよ」
いつも家族と一緒だったけれども、ユーの家の窓からも花火が見えたので、時々はマコトを誘ってユーの家に行ったものだ。
残念ながらカホは花火の時は必ずお店の手伝いをしていたから、小さい時はカホは花火は見られなかっただろうと、つい最近まで思っていた。
だから可哀想で花火の翌日は、僕は必ずカホの店に行っては、カホと花火以外の楽しい話をするようにしていたのだ。
「本当は花火よく見てたのよ」
そう聞いたのは最近だった。花火の時は親戚のおばさんが一人手伝いに来ていたので、いつも三十分くらいはカホにも見せたいと、カホの母親が休憩を与えていたらしいのだ。
それを聞いて僕は、花火の翌日に行ってカホの話し相手になっていた日々を返してもらいたいと本気で思った。
カホの話だと、手伝いをして、汗だくになって、人の合間から見えた花火はたいそう美しかったそうだ。きっと僕が見ていた花火より美しかったに違いない。
怠け者の僕が見る花火と、働き者のカホが見る花火に違いがなかったら不公平だ。時折しか見る機会がなかったけれども、花火自体もきれいなら、夜の屋形船の合間に見える、隅田川に映る花火もゆらゆらしてきれいだった。
それが、僕たちが中学、高校と進むうちに、花火の見る位置を確保しようとやっきになる人たちが街中にあふれてきはじめて、それを見ているうちに段々と興ざめていくのだった。