だけどマコトやユーやカホとの友情だけは変わらなかった。相変わらずカホの店でもんじゃ焼きを作り、食べながら、学校の話から天空の花火の話まで、飽きることなく話していた。そんな時が僕はいつも好きだった。

僕が小学校低学年の時に、隅田川沿いにうんこビルが出来た。ビルの上にうんこが乗っているのだ。ビール会社の建物で、どうやら炎を金で表現しているらしいが、僕たちの中では、色といい、形といい、うんこにしか見えないので、うんこビルと呼んでいた。

僕たちだけでなく、みんなそう言っていたが、父さんは、その会社の人と話すときは、「素晴らしい芸術ですね」などと話していた。

この界隈に大きな会社が来てくれることは何よりだし、特にここはビールを飲めるのでなおさらよかったのだろうが、考えようによっては、うんこビルと言われて親しまれるのもいいのではないかと思う。みんなにここが親しまれたのは、そのせいだと今も僕は確信している。

僕らはこの近くの建物の広々とした敷地に行っては、この大きな建物を見上げていた。僕たちの生活とはどこか縁遠い気がしていたが、夕方になると、カホの店みたいに人が集まってはビールを飲んでいたので、やがて僕らにも、とても優しい場所のように思えてきた。

赤ら顔した真面目なおじさんたちがネクタイをしてふらふらしていたり、きれいなお姉さんがきゃっ、きゃっ言いながら飲んでいたりして、僕らにはとてもおしゃれなところだった。

やがて働くようになり、はじめてここでビールを飲んだ時のおいしかったこと。自分の街にこんなところがあるなんて、とてもハッピーだなと思ったものだ。

……とはいえ、僕らはカホの店が本拠地だったことに変わりはない。僕もマコトもユーも、誰も言わなかったけれど、みんなカホのことが好きだったのだと思う。丸くて、かわいくて、人間の顔なのだけれど、いつも透き通るように透明な肌をしていた。

声もとてもさわやかで、どうしてこれで、もんじゃ焼きやお好み焼きを食べることが出来るだろうと、僕は不思議だった。

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