一
後で知ったことだが、僕がそれをすることが日課だったので、お菓子は絶えず買っておいたようだし、従業員や父さんもお菓子を毎日食べていたわけでもなく、僕が喜ぶので、それを受け取ってくれていて、それぞれの作業場の机の中にお菓子を溜めていたらしい。
そんなことは僕が中学に入ってから分かったことで、それまでの僕は本当にお菓子をあげることが自分の役目、受け取った人が笑ってくれることが僕の仕事だと思っていた。
歌穂(カホ)ちゃんは幼なじみで、近くの駄菓子屋さんの娘さんだった。駄菓子屋と言っても下町のお菓子やジュースばかり売っているのではなくて、店の横に小さなテントを張って、夕方からそこに来る工場帰りの工員にビールやお好み焼き、もんじゃ焼きも出す店だった。
昼でも子供たちがくると、サイダーや小さなもんじゃ焼きを出しては街のたまり場のようにしてくれる店だった。僕らの小さな情報交流の場所はここだった。
店の横に出ている長い椅子を、僕と僕の家の隣に住むプロレス好きの真(まこと)、学校の近くに住む僕らの唯一の知的友人、眼鏡の祐二、そしてお店の娘、我らのアイドル、歌穂ちゃんがいつも占領していた。
僕こと河田孝(たかし)通称タッキーと、横田真ことマコト、川村祐二ことユー、吉田歌穂ちゃんことカホこそは鉄壁の軍団だった。みんなが学習塾に通うことが当たり前になっていた時代だったけれども、なぜかこの四人だけは塾に行かない数少ない子供たちだった。
マコトの家はお金がないとマコトも言っていたし、僕も毎日マコトの家を見てはそうだろうなと思っていたが、別にそれでマコトが引っ込み思案になるわけでもなく、僕たちもそれをつっこむような話をすることなどなかった。マコトのお父さんは板金の仕事をしていたらしく、毎朝早くに家を出て行った。
「毎日、毎日、タッキーの家は機械の音でうるさいんだよ。父ちゃんが眠れねぇ、眠れねぇって言っているんだぜ」僕はそう言われると弱いのだけれども
「悪いなマコト、うちはそれで食ってるんだから勘弁してくれよ。今度壁のクッションになる布団でも持って行ってやるからさ」そう言うとマコトはいつも、もじもじしながら