「あ、ありがとうございます」

亜美はその紳士の瞳に吸い込まれるような感覚になった。そして照れくささを隠すように慌てて目を逸らした。

「あの~」

「あなたは……」

二人が同時に言葉を発し、そこで一瞬の沈黙の後、お互い軽く笑みがこぼれた。

「どうぞ、何か?」とその紳士。

「あのう、どちらかでお会いしたことありますか?」

「ああ、ははは、そうお感じですか?」

「いや、あの、何となく……」

「そうですね、はるか遠くの過去世かもしれませんね」

「えっ? 過去世?」

「あはは……」

一瞬だけ哀しそうな瞳を見せたその紳士。その後はお互い何も言葉を交わすこともなく時間が過ぎていき、その紳士はそのまま去っていった。何となく背中を見送った後、視線を元に戻したら、封筒がテーブルの下に残っていた。忘れ物だと思ったものの、既にその背中はもう見えなかった。

その封筒を手にしたら開いていたし、それほど大切なものでもなさそうなことはすぐにわかった。これなら見ても良いだろうと中身を出してみると、旅行会社のパラオのパンフレットだった。中には、おそらく旅行会社の人からと思われるメモがあった。

〝小泉さま、いつもありがとうございます。ご希望の日程が決まったらお知らせください。最後のパラオ旅行になるかもと伺って、必ずご満足いただけるように頑張ります。ご要望は何なりとお申し付けください〟とあった。

本人を追いかけなくても良いだろうと思いながら、時計を見て慌ててその封筒を店員に託し仕事へ戻った。

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