島に残された戦車の残骸、遠くに見える飛行機や軍艦、輸送船の残骸、そこを何事もなかったかのように楽しそうに泳ぐきれいな魚たち、そして海を通して静かにそれを照らす太陽。まだこどもだったけど、それを見ていて何とも言えないノスタルジーを感じていた。

その光景はその後も忘れることなく亜美の脳裏に焼き付いて離れることはなかったが、そのときの感情が夢の中に蘇ってくるのは、どうしてだろう? そして、夢の最後には決まって神話に登場するような雰囲気の男性が出てきて、優しい目で微笑んでいる。そして目が覚める。

亜美自身も遠い昔の時代の誰かの生まれ変わりなのかなぁ?と思うことがときどきあった。自分の名前は父と母が〝アジアの未来が美しいものであるように〟と願って決めたと聞いていた。そんなことを考えていると、初老の紳士が隣の席に近づいてきた。

「ここ空いていますか?」

「どうぞ」

別によくあることなのだが、驚いて隣の紳士の横顔を少し覗き込んでしまった。夢に出てくる人と瞳が似ている気がした。

「何か?」

「ああ、いや、あの何でもないです」

びっくりして慌ててしまい、スコーンを落としかけて右手で拾ったところ、その紳士の左手がそれを取ろうとして亜美の右手を包み込んだ。そのとき、温かい何かに包まれ、表現できない幸せを感じた。こどもの頃、父と母に手を繋がれて歩いていたときに似ている感覚だった。

「大丈夫ですか? 落ちなくて良かったです」