太平洋の波の上で ─22年後─
パラオ
その日の仕事を終え家に戻り、電気をつけて、「ふー」と息を吐いて部屋に帰った亜美は、冷えたレモンサワーを飲みながら、ニュースを流していた。
「飯田橋の交差点で、乗用車が信号待ちをしている人へ突っ込む事故があり、三人の方が重軽傷、一人が死亡しました……ケガの三人は病院へ搬送され治療中ですが、命に別状はないようです。亡くなられたのは65歳の男性、会社役員のコイズミさんとわかりました」
「えっ? やだ、うそ? あの人? まさか……」
昼間のカフェの出来事を思い出した。
「パラオへ行きなさいってことなのかしら……」
侵略者の皇太子
高校時代からの仲良し四人組、のりこ、ルナ、ゆうこと卒業後に行った女子旅の楽しかった思い出と、小泉さんの手のぬくもりが亜美をパラオへと導いた。
直行便で4時間、機内でくつろぎながら、飛行機がフィリピン上空を通り抜けていくとき、亜美自身が20代前半にアメリカへ留学していた頃のことを思い出していた。
シアトルから飛行機で6~7時間、アイダホとの州境近くのキャンパスで過ごしていた。
ワシントン州に留学していた亜美は英語と格闘しながら、友人たちと交流する日々を過ごしていた。
「ハイ、亜美!」
彼女はフィリピンからの留学生アリサ。ミクロネシアらしい褐色の肌に大きな瞳の持ち主。
「いいよな、アリサはもともと英語ができるからアドバンテージあるよなぁ。わたしは何やるのにも単語の確認から……嫌になっちゃうわ」
「ふーん、そう思う?」
「授業だってフォローするのが大変なのよね……」
「いいじゃない、日本は母国語で高等教育が全てできるんでしょう?」
「うん、まあね」
「大学院まで日本語でOKでしょ? それってすごいことなのよ」
「そうなの?」
アリサは全くもう、という顔をして苦笑いしながら亜美を見た。