「だって、わたしの国の名前って、知ってるでしょ?」
「フィリピンでしょ」
「この名前の由来って知ってる?」
「えー、だってフィリピンはフィリピンでしょ?」また彼女は全くもう、という顔をしていた。
アリサとは寮の同じ部屋で過ごしていた。パーティーではお互いよくビールを飲んで、盛り上がって話をした。彼女は日本が好きだし、日本人を尊敬しているといつも言っていた。
「ねえアリサ、わたしたちは、日本は侵略戦争をした悪い国って教わっているのよ。どうして日本が好きなの?」
「寿司は美味しいし、着物はきれいだし、みんな礼儀正しいじゃない。日本のアニメは可愛いし、きれいだし……どうしてそんな風に教えられてるの?」
「だって、あなたの国、フィリピンだって日本に酷いことをされたのでしょう?」
このときのアリサの顔は今でも忘れることはない。怒りとも悲しみともとれる何ともやるせない瞳だった。
「ねえ、亜美、今度日本に帰るとき、うちに寄らない?」
「えっ? アリサのとこ?」
「わたしの曽祖父の兄はリカルテ将軍に仕えていたの。日本に滞在していたこともあったのよ」
「えっ、何々?」
「亜美、あなたはわたしのところへ来るべきよ」
彼女のこの力強い一言に、亜美は冬休みの一時帰国の途中で、フィリピンに寄ることになった。