太平洋の波の上で ─22年後─

侵略者の皇太子

スペインはその後、キリスト教を布教しながら、近代兵器を手にわずか30‌0‌人くらいの軍隊でルソン島を制圧。それまで戦うことを知らぬ平和を愛していた人々は、簡単に負けてしまう。

一矢報いようと立ち上がってマゼランを殺したのがラプラプ王だった。しかし、それ以来300年以上にわたり、過酷な弾圧と搾取の植民地奴隷の毎日を過ごすことになってしまう。

やがて一人の英雄が現れた。スペイン本国のマドリード大学に留学し医学を志した青年は、後に1888年に日本を訪れ、約2か月滞在した。そのときの日本を見て、母国の独立を夢見たのではないかと言われている。

ホセ・リサールというフィリピン独立を目指したこの青年は、支配国スペインからは危険人物とされ、何度も他の島に流刑にされた。

その後、スペインからの独立を求めて革命運動が巻き起こるが、リサールはその首謀者として、マニラ市内で何万人もの人々の前で見せしめの銃殺刑にされてしまった。

アリサの解説を聞きながら、車はマニラ郊外のアリサの自宅へ。普通の日本の戸建てで生活していた亜美からすると大邸宅、門から玄関まで百メートルはあった。

「アリサ、なんかすごいおうちだね」

「そう? ゆっくりくつろいでね」

「ようこそ、いらっしゃいました。あなたに会えるのをずっと楽しみにしておりました」と柔和な笑顔でアリサのお父さんが挨拶してくれた。

「亜美です。今日はお招きいただいて、ありがとうございます」

「フライトで疲れたでしょう、少しお休みください。ディナーはそれからにしましょう」とお母さんが寝室へ案内してくれた。

広いダイニングテーブルで、四人で始めた食事は楽しかった。

「アリサはねえ、日本の女の子と友達になれた、是非うちに連れてきたいってずっと言っていたのよ」とお母さん。

「そうそう、是非これからもよろしくお願いしますね」

ワインを飲みながらお父さんも笑顔で話してくれた。アリサのお父さんは貿易で財をなした人、お母さんとはこどもの頃からお互いを知る幼馴染だったそうだ。

「ところで、亜美さん、あなたの名前は日本語で、漢字でアジアという意味があると娘から聞いていましたが」

「はい、美しいアジア……みたいな意味です」

「そうですか、亜美という響きもいいし、それはわれわれも嬉しくなる名前ですね」

「ありがとうございます」

亜美もお酒が回り心地良くなってきて嬉しくなった。

「わたしの家は、日本とご縁があってね。だからあなたが今日来てくれたのも神様のお導きだと思います。本当にありがとう」

お父さんは、日本と縁のあった自身の祖父の兄のことを語り始めた。