「私は、麦飯より白米の方が……」と団が言うと
「あら、この麦飯美味しいですよ。私は美容と健康の為に五穀米を頂いているので麦飯が美味しく感じます」と桜田が答えた。
すると団が「健康はともかくとして美容はちょっと意外でした」とニコニコしながら言うと
「それ! セクハラ! しかも警部より検事は格上、パワハラでも問われますけど」と団を睨みつけて言った。
そのやり取りを見ていた須崎が「年末にお二人でコンビを組んでお笑いのグランプリにお出になっては?」と冗談をぶつけた。
三人で大笑いした後、桜田が「さっきスマホで調べて吃驚したんだけど、昭和四〇年代の起訴率は送検された事件の八〇%を超えていたって本当ですか?」と団を質した。
「ええ、本当です」と団が答えると「それが今は二〇%弱というのも本当ですか?」と質すと「それも本当」と団が答えた。
すると透かさず桜田が「私が野党の国会議員だったなら、今日見てきた実情や起訴率が四分の一まで低下している現実等を質して、法務大臣の怠慢を指摘して罷免させてみせるわ」と息巻くと
「おい、おい、物騒なこと言うなよ。身内だと思うから洗いざらい現状を見せたのに裏切りは許されないぞ。それに俺達検事の起訴権の上の法務大臣には指揮権発動という伝家の宝刀があるんだから……俺達のボスを侮ってはいけない」と団が桜田を諭す様に言った。
「指揮権ってそんなに凄い権力なの?」と桜田に問われた団が
「そりゃ凄いさ。例えば俺が君を殺したとする。君を殺害した件で俺が起訴されそうになった時、法務大臣が指揮権を発動して俺の起訴を阻止したなら、俺は殺人罪に問われない。それくらい凄い権力なんだ」と、とんでもない例えで説明したのだ。
「殺人事件を闇に葬れる権力という事かー……でも貴方に私は殺せないけどね。貴方が私を殺す前に貴方が私に射殺されてしまうもの」と桜田が不敵な笑みを浮かべてみせた。
日頃何かと緊張感を強いられる環境下に身を置くせいか気を許して屈託なく話せる雰囲気に三人は暫し時を忘れる思いがした。
【前回の記事を読む】検事の悩ましい現実。刑罰優先か、それとも被害者救済優先か…【小説】