第一章 「刑務所が足りない!」

「それって、法の番人としておかしくない? 万引きでも窃盗は窃盗罪でしょう? 被害額が一,〇〇〇万円超えないと公判維持する様な窃盗罪ではないとでも言いたいの? 検察は……」と桜田が皮肉を込めて団に突っ込みを入れてきた。

このやり取りを聞いていた所長の須崎が「検事さんがそんな対応をせざるを得ない思いは私にはよく理解できます。私が看守になりたての頃の収容者の気質と今の収容者の気質は大違いです。私が看守になりたてだった頃の収容者は、自分が犯した罪の意識に苛まれている収容者がほとんどでした。

我々看守を『先生、先生』と呼び敬意をもって平身低頭で接していました。しかし、昨今の収容者は、看守の我々を『おい、看守!』と呼び捨てです。

『先生』と我々看守を呼んでいた頃の収容者は、自分が怪我をさせた被害者への賠償をどうやってやるか真剣に考えていました。刑期が終わったなら必死に働いて、慰謝料や損害賠償をしようと殊勝に考えていました。

そういう相談を頻繁に受けました。しかし今時の収容者からはそんな相談受けた事がありません。刑期を終えれば自分が犯した罪に対する禊は終わるとでもいった態度の連中がほとんどです。被害者に済まない事をしたという殊勝な者が減ってしまった事を私達は、肌感覚で感じております」と発言した。

この発言を受けて、団が「そこなんだ! 今、検事をやっていて一番悩ましい点が刑罰を科す事を優先すべきか、それとも被害者救済をする事を優先すべきか、という二律背反に対応しなければならない事なんだ」と堰を切った様に言った。

「済みません、もう少し具体的に言って頂けるとありがたいんですが……?」と桜田が言うと

「貴方方捜査機関に携わる方は被害届に応じて事件を捜査し、犯人を逮捕し取り調べた後犯人の身柄と捜査書類を検察に送るまでが仕事ですよね?」と検事は桜田に捜査に携わる者の仕事を確認してきた。

「ええ、仰る通りですけれど? ……」と桜田が答えると

「我々は、この国で唯一起訴権という特別な権能を持っているけれど、事件の性質に基づいて原状回復を優先すべきか、起訴権を行使して加罰すべきか、という判断に苦慮するんだ。