具体例を挙げれば強制性交事案が発生したとして、被害者が加罰よりも受けた被害に対する慰謝料を得ることの方が精神的に救われると訴えた場合、私は被害者救済を優先している。

被疑者側の弁護士が出てくるから、加罰をしない代わりにその被疑者が最大限支払えると思われる水準まで慰謝料を吹っかけてやる様にしている。

でも精神的に辛いのがそういった輩が再犯して、同じ様に示談できると高を括ってきた時だ。今度は加罰すべきと意を決しても、被害者にとっては初犯も再犯も関係ないから公平感を著しく損ねてしまいかねない。ハムレットの様な心境を強いられるんだ」と団が強制性交事案を引き合いにして説明してくれた。

すると所長の須崎が「分かります。刑期を終えたら被害者への責任を果たしたと思っている連中がほとんどですから……私が看守になりたての頃は刑に服したという事は明白に不法行為を犯したという公的機関のお墨付きな訳ですから、出所後に被害者から民法七〇九条の不法行為における損害賠償責任で訴えられれば十中八九損害賠償責任は免れなかったけど、今は『ない袖は振れない』と取り合わないと思われる輩がほとんどで、被害者が泣き寝入りする事が大半です。

検事が加罰より被害者救済を優先するお気持ちは理解できます。私も同じ立場に立たされれば同じ思いで処理すると思います」と所長の須崎が団に同調した。

すると「それでかー……最近現場から今回の犯人の逮捕歴が三回目だったとか四回目の逮捕だとかが目立つ様になったのは……」と桜田は合点がいったという感想を漏らした。

「先月、家族や捜査関係者に泣き付かれて、下着泥棒を働いた被疑者を住居侵入罪等と併合罪にして、起訴してやっと懲役四年の刑にできたけど、送られる刑務所が大変だと思う」と団が言うと

「その通りです。下着の窃盗犯や痴漢、盗撮犯等は雑居房へ入れると虐めの対象となり、監視や警戒を怠ると虐めによる傷害事件や最悪は自殺されかねませんから収容先の刑務所は大変なのです」と須崎が受け入れる刑務所側の実情を訴えた。

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