第一章 「刑務所が足りない!」

「現実問題として逮捕歴九回の(つわもの)が平然と巷にいるのですか? 逮捕する側としてはやり切れません」と桜田が実情を素直に嘆いてみせた。

すると団が「法曹界全体が病んでいるという事じゃないかな。法治国家は最早建前となりつつあるんじゃないかな。そんな虚しい気がする」と憂いてみせた。

「それは、刑務所側でも言えます。厳罰化の流れを受けて刑期が長くなっている中で、模範囚を人為的に増やしたりして、仮釈放を増やしたり、無期懲役者に対しては一〇年以上が経過しないと認めなかった仮釈放の年限を模範囚である事等の条件を付け九年間に前倒ししたりして、調整を図って刑務所の定員を何とかやり繰りしているのが現状です。

厳罰化して刑期が長くなればそれだけ滞留者が増えるのに刑務所を増やさないこの国の司法は理解できません。

その上に外国人犯罪の急激な増加で、一時はどこの刑務所も定員を二、三割オーバーしての収容が常態化していました。国際的な人権問題となりそうになって慌てて場当たり的な対処をしたというのが実態です」

と刑務所の実情を須崎が露わにすると「一言で言えば今の日本には『刑務所が足りない!』という事ですね」と桜田が言うと二人が大きく頷いてみせた。

この後須崎の案内で、二人は懲役囚の作業場や五棟もある入浴棟、炊事施設等を視察して回った後、所長応接室で収容者と全く同じ昼食を摂る事になった。所謂監獄飯の試食である。ここで桜田が素っ頓狂な声を上げた。

「あれ、臭い飯というのに全然臭くなく、美味しい!」それを受け、須崎が

「私も聞いた話ですが、昔の麦飯が少し臭ったみたいに聞いています。それと昔の雑居房は汲み取り式のトイレでしたから、夏等はそんな臭いがする中で食べる訳なので『臭い飯』といわれたのかも知れません。いずれにしろ、今は出来立ての食事を食するので意外に美味しいんです」と須崎が説明した。