第1章 渚にて
「いいこと思いついたわ」私は38フィートのクルーザーを所有していてそれをチャネルアイランド港に停泊させている親友のロビンに電話した。そのクルーザーには5人が泊まることができ、デービットと私は、よくロビンと彼女の夫スティーブと一緒にクルージングしたものだった。
彼女には事情があって、2~3日彼女のクルーザーに滞在できないかとたずねた。彼女は快諾してくれたので、食べ物を持ってきてもらうようお願いした。
「それでもう一つお願いがあるんだけど、船にウオッカはあったかしら」
「ウオッカならいつでも置いてあるわ」と彼女は答えた。まだ午前中だったけれども、その夜は寝付けないだろうことは分かっていた。
デービットは(カリフォルニア沿岸にある)チャネルアイランド港へのルートとロビンのクルーザーの係留場所を知っていた。15分も経たないうちに彼女のボートのある場所に到着した。私は彼がクレジットカードを使わないですむように、封筒から100ドル紙幣を2〜3枚彼に渡した。
この時点では私はハーヴェイ・ウィットモアが私を脅すために差し向けたネバダ大学レノ校の乱暴者と何人かの地元警備員を相手にしているものと思い込んでいた。
私たちはカリフォルニアとネバダで登録している弁護士を探すだけだった。見つかれば大丈夫。私はデービットに弁護士を見つけるまではロビンのボートに近づかないよう言っておいた。
クルーザーに乗船した後、キャビンに向かい、使い捨て携帯電話を引っ張り出した。慢性疲労症候群の患者で友人のジーネットに電話した。
彼女とその夫エドは2人ともサンフランシスコの弁護士だ。事の始終を説明すると、彼女は私の事件を扱える地元の弁護士を探すと言ってくれた。
ジーネットとの電話のあと、私は一息ついた。風の強い日でマストのロープが音を立てており、船はゆっくりと揺れて、私は怯えきっていた。50名以上の学者による審査を受けるような論文を書く博士号を持つ科学者が体験することなどあり得ないような事態だった。
特に私は世間を驚かせるような論文を、それも独自研究を取り扱う世界で最も高名な科学誌にチームリーダーとして発表したばかりだった。