第一章 過去の足跡 先人の努力を見る

映画『若者たち』森川時久監督 一九六七年

貧しさからの脱出、六〇年代の社会

太郎(田中邦衛)、次郎(橋本功)、三郎(山本圭)、オリエ(佐藤オリエ)、末吉(松山省二)一九六〇年代後半、両親を失った五人兄弟が喧嘩しながらも、懸命に生きていく姿を現した映画。

「山田洋次監督が選んだ日本の名作一〇〇本(家族編)」の内の一本として 衛星放送で放映されたもの。

工事監督をして弟達を育てた長男太郎は、長屋生活から抜け出し、家を建てるのが最大の夢。親会社の監督の娘との縁談の中で、学歴のない太郎に対して大学卒の四倍も五倍もの年月を掛けてやっと追いつくという生活には付いてゆけないと言われ破談。

次郎は、妾の娘とさげすまれ、働いている工場がつぶれて日用雑貨を売り歩き、あげくに労働組合の幹部に金を持ち逃げされ飲み屋の女給になったマチ子を立ちなおらせる。

学費闘争にあけくれる大学生の三郎は大学をやめ、看護婦になるという友人河田靖子(栗原小巻)の生き方に心動かされる。

末吉は、浪人して大学の一次試験には合格するが、二次で不合格であった。働きに出るという末吉に対して学歴が無く苦労をしている太郎は大反対する。

長女オリエは喧嘩の絶えない兄弟に嫌気がさし、マチ子のアパートに身を寄せるが、マチ子の姿を見て生活の厳しさを知り、工場で働こうとする。そこで被爆者の戸坂(石立鉄男)と出会い恋に落ちる。生活の厳しさを知ったオリエは、家に戻ってくると自分も兄たちと同じように働きに出るという。

一九六〇年代後半、日本は未だ戦後の貧しさを引きずっていた時代。懸命に生きる人々の暮らしや、工場の姿、労働組合運動、若者たちの夢や苦悩が五人兄弟の生活をとおして描き出されている。

この映画を特徴づけているのは食事風景と兄弟喧嘩の場面だと思う。長屋での兄弟の食事風景。とにかくガッつく。生きる執念を表すかのような風景。そして、工場やアパートでの食事風景。食べることとはこれほどまでに人間の本性を露わにするものなのか。