北満のシリウス

八月七日 午後三時二十分頃 ハルビン キタイスカヤ 歩道

コザック帽の男は、先の割れたガッシリした顎、角張って四角い顔の輪郭にどっしりとした鼻、野性の虎のように獰猛な目をしており、口周り、頬、顎全体を見るからに固そうな無精髭が覆っていた。

東洋人の男は、黒いズボンに黒いジャケットという出で立ちで、ジャケットの下には、やはり黒いワイシャツを着ていた。日焼けして鋭く引き締まった顔付き、一重瞼の目は、かなり細いものの、前を見据える目は狼のように鋭かった。

額をむき出しにして油でピシッと後ろに撫でつけられた髪、そして、たくわえた口髭と顎髭は、まめに切りそろえられ、手入れが行き届いている感じだった。

馬から二人が降りると、コサック帽の男がやたらと大きいことが分かった。百八十センチ台後半か百九十センチ以上か。そして、何よりも体格がすごかった。百二十キロはあるように見えた。しかも、筋肉質である。

最後に腕に鷹を乗せた男が、白い馬から降りた。その男は、彫りが深く東洋人離れした顔つきだが、やはり東洋人のようだ。色は、やや白いが、精悍な顔つきをしている。

屈強な三人の男達と書いたが、実を言えば、この男は、一見そうではない。スレンダーで、すらりとしている。身長は、百七十センチ台半ば程度。もう一人の東洋人と同じくらいだ。

当時の内地であれば、十分すぎるほど高身長だが、体格の良い中国人や白人の多い満州では、必ずしもそうではない。しかし、顔が小さく、肩幅は広く、腰の位置が高く、手足もすらりとしているため、実際よりも背が高く見えるタイプだ。

濃紺のズボンを穿き、上半身は、グレーのタンクトップの上から、白っぽいジャケットを羽織っていた。さまになる男だ。ナツも驚いたようだった。

「かっこいい……」

東洋人らしき男二人は、コサック帽の男に比べれば身長は普通だが、鍛え上げられた体をしていることが服の上からでも分かった。正確に言えば、白っぽいジャケットの男は、細身であるため、一見、そうは見えない。だが、ジャケットの下から見えるタンクトップの胸元の大胸筋の盛り上がりが、この男が並みの肉体の持ち主ではないことを示していた。