十一月にサイバーナイフ治療を終えてからの彼は、元の大学病院に戻り、〈ベバシズマブ〉という治療を始めた。
〈ベバシズマブ アバスチン〉というのは、又の名を、〈分子標的治療薬ベバシズマブ〉というらしく、悪性神経膠腫の治療に使われる薬で、〈グリオーマ悪性神経膠腫〉の血管新生を抑えたり、腫瘍の増殖や転移を抑えたりする作用を持ち、腫瘍が大きくならない様にする薬らしい。しかし腫瘍細胞そのものを殺す力は無いと、本に書いてある。副作用は少ない制癌剤だと。
又〈ベバシズマブ〉は、生存期間を延長しないとも色々な論文には書いてあった。しかし悪性膠芽腫であれば、保険診療ができるし、高額医療費の対象(年収により違うが)にはなるが、通常の収入がある一般的な患者でも、結構なお金がかかる。それを月に二回もやれば、その倍かかる。
家族にとっては、かなりの負担になるのである。そして担当医の先生から以前に言われていたのだが、この〈ベバシズマブ治療〉が彼にとってもう最後の治療かもしれないのだ。
最愛の人が少しでも延命できるのであれば、そう思うとお金がきつくてもかけてしまうのは、誰しも同じだと思う。高額で大変だったが、その治療を彼は、月に二回程受けていた。
これも最後の神頼みの様なものであったのだ。今となっては、毎回の診察は車に乗せて連れて行き、やれる事はやってあげて良かったなと思っている。しかし彼の腫瘍の進行が速くて、どうも〈ベバシズマブ治療〉は彼にとって、効果があったのかどうかは今でも分からないままである。