第二章 子どもごころ
算数の天才
小さいお子さんを育てているお母さんから、発達の相談をされることがあります。他のお子さんと比べて言葉が遅いとか、落ち着きがないなど、不安を感じながら子育てをしているお母さんは少なくありません。
子どもの発達は十人いれば十とおりの発達の仕方があります。遺伝子に組み込まれているプログラムどおりに発達していくことに違いはないのですが、そのスピードもその順番もまったく同じお子さんはいないと言っても過言ではありません。また、バランスよくすべての発達が平均的に揃うわけではなく、発達のデコボコは存在します。
この発達のデコボコが、日常生活を送っていく上で生きづらさを感じ、WHOやアメリカ精神医学会が作成した診断マニュアルに該当する場合、さまざまな発達障がいの診断が下されるという仕組みになっています。
『算数の天才なのに計算ができない男の子のはなし算数障害を知ってますか?』(バーバラ・エシャム文、マイク&カール・ゴードン絵、品川裕香訳、岩崎書店、2013)という絵本があります。
算数なら誰にも負けないと思っていたマックスは、計算問題をやるときに時間を競わされると、たちまち算数ができなくなってしまいます。でも、マックスは算数の天才で、小学三年生なのに代数の問題を解いていて、数学オリンピックのメンバーになったという物語です。実は、著名な数学者の多くは計算が苦手だったのですね。
マックスは九九みたいな算数のルールを覚えるのは苦手なのですが、数の概念とか数同士がどのように関連し合うかなどはパッとわかるのです。だから小学三年生で高校の数学Ⅰの問題が解ける……これぞまさしく発達のデコボコですね。
ここで、日本の特別支援教育を振り返ると、マックスのように計算でつまずいたら、ひたすら九九を言わせ、プリント問題をやらせる……というアプローチを行うことが多いような気がします。実は算数の天才なのかもしれないのに!
子どもの発達のデコボコを知り、その子の得意なところを伸ばしていく教育が、日本の特別支援教育にも必要なのだろうと思います。これを「2E(トゥーイー)教育」といいます。