五 午後……十二時四十分 ドリームランド内社員食堂

「そんなの、僕が知るわけないよ。冷静に考えてみなって。観覧車の運行を乗っ取っても、ゴンドラを落とすなんてできない。電車の連結とはわけが違うんだ。ドリームアイはその生涯を終えるまでゴンドラの交換はしない設計になってる。

だからそもそも取り外すということを想定してないんだよ。ゴンドラの接続は、建築時に作業員が手作業で取り付けた、アナログな構造なんだ」

「ええと、ドリームアイは、完璧なコンピューター制御って聞いてますけど……」

「それは運行に限っての話だね。あれのシステムは他から独立していて、電源も独自なんだ。だから、ドリームアイのシステムが乗っ取られると、電気の供給を止めて停止させることもできなくなる。……完璧な制御だからこそ、管理者権限が奪われると、何もできなくなっちゃうんだよね」

「じゃあ、これは想定外の出来事なんですね」

「こんなの、誰一人として予測できないよ。あの観覧車の建設には丸五年も費やしたんだ。計画自体はもっと前から。建築前に何千回も安全確認の実験をして、あらゆる不測の事態を何度もシミュレーションしたんだ。でも、こんな結果は一度としてなかったわけでさ……どうなっちゃうんだろう、これから……」

「そうですか、そうですよね」

滝口は深く頷く。宮内はお茶を軽くすすると話を切り出した。

「じゃあ、そろそろ教えてくれるかな?」

「はい?」

「君が僕に話を聞きに来た理由だよ。君の方からわざわざ話しかけてきたんだからさ」

そう聞かれて、滝口は一瞬口籠もる。

「僕と滝口さんとは年も離れてるし、立場も大きく違うよね。従業員が多い職場でもあるし、話したのは今さっき、ドリームアイが止まった時が初めてじゃないの? そんな子から急に声をかけられるなんて不自然だよ。まあ、君、可愛いし嬉しかったけどさ」

さっき言ってた仲山って人が関係してるとか? と聞かれて滝口はうろたえた。

「えっと、それは……」

「あのさ、僕だって事故のことを知りたいんだよ。僕にとってドリームアイは家族みたいなものだ。その家族が誰かに傷つけられ、命を奪うもの……殺人観覧車になるなんて、夢にも思わなかった。僕は責任者だし、愛着もあるわけでさ」

「え、ええ。わかりました。あまり大きな声では言えませんが、宮内さんも話してくださったので私もお話しします。ご想像通り、ある人に言われてここへ来ました」

「それが仲山って人なんだね、警察の捜査員?」

「いいえ、ドリームアイの乗客です」

「乗客って……まさか、今観覧車に乗ってるってこと?」