「ええ、そうなんです。落下事故のあと、私以外のスタッフは、宮内さんの指示通り、待機列の乗客を避難させてました。それで私だけ真下の運営局に残って、アナウンスと連絡係を担当してたんです。その時、ゴンドラ内から通話がかかってきて話をしました」
「なんでその人が僕のことを知ってるんだ?」
「宮内さんの名前を知ってたわけじゃないです。その仲山さんって人は、ドリームアイのシステム担当者と話して欲しいって。何も情報がないからって。それと……これは不慮の事故ではなく、計画的な殺人で、犯人がいるって言ってました」
「何だって? それ、ホントかよ!」
宮内は大きな声で叫び、滝口が口元に人差し指を当てる。今度は宮内が、慌てて声をひそめた。
「実はですね。既に接触してきてるらしいんですよ、犯人。ゴンドラ内のアナウンス用のスピーカーを乗っ取ってるらしくて。これは間違いなく事件だって、その人が断言してました」
「とても信じられない……」
宮内は眉間に深い皺を寄せた。何か疑念を抱いているのは明白だったが、滝口は話を続ける。
「ドリームアイに乗る前のその方とお話ししていますし、お子様連れで悪い印象もなかったので、とりあえず信じました。でもやっぱり、冷静になると少しおかしいですよね。する意味がないし、ありえないじゃないですか、観覧車ジャックなんて」
「ああ、その人も混乱していただろうしな。思い込みとかで言ってるかもじゃない?」
「あ、でも最後に……」
「なに?」
「その人、警察は信用するなって言ったんです」
「常識的に考えれば、信用すべきは警察の方だけどねぇ」
宮内は呆れたような表情を作った。腕を組んで安物の椅子の背もたれに寄りかかる。滝口も深く頷いた。
「……そうですよね。でも私、あの時まだ冷静じゃなくて」
「まあでも、観覧者ジャックなんて突飛(とっぴ)な証言だから、警察も間に受けることはないだろうけど」
「で、ですよねぇ。一応、そういう話があるって、さっき運営局に来た警察の人に言っておきました」
「ああ、僕はシステム管制室から追い出されたけど、君も真下の運営局から追い出されてここに来たの?」
「ええ、そうなんです。私以外も、ドリームアイのスタッフは全員ここにいるようにって」
滝口は頷いた。
「でも、真下の運営局はその時には使えなくなってて」
「使えなくなった?」
宮内に聞き返され、滝口は真剣に頷く。