五 午後……十二時四十分 ドリームランド内社員食堂
「大変な事態になっちゃったね、君も混乱してるだろ?」
ドリームアイの管理責任者である宮内が、無料のお茶を取り出しながら言った。それを受け取ったのは滝口美香。観覧車の誘導担当係員だ。宮内は太り気味で、髪の毛があちこちに跳ねているため、滝口は、だらしのない人だな、という印象を持った。ドリームアイの精密さに比べて、このシステム担当者は諸々が緩いような気がしたのだ。
「そうなんです……。もうわけがわからなくて。まさかこんなことが現実に起こるなんて」
「僕もそうだよ。ドリームアイが勝手に止まるだけでもありえないのに、こんな大事故なんてさ。……でもゴンドラが落ちた時、周囲に人がいなかったのは奇跡だよ。百二十メートル上空から数百キロの物体が落ちたんだからね。大惨事になるところだった」
「もう大惨事ですよ……」
「ま、まあ……。でもまだ死者二名だし」
「二人だって、お亡くなりになってるんですよ! シルバーゴンドラが落ちて……宮内さん達の部門も大変じゃないですか」
「ああ、そりゃそうだけど。でも事故が起こってすぐ警察が大勢で乗り込んできたからね。
僕らはシステム運用部から完全に追い出されたよ。だから、やれることがないんだ。お手上げだよ」
「そうなんですか?」
「パスも取り上げられちゃってさあ。今やログインすらできないって徹底ぶりだ。おそらく疑われてるんだろうね」
「えっ……と」
「まあ、僕が疑われる立場なのはわかるけど。事故でも、事件でもさ」
仕方ない、責任者なんだから、と宮内は肩をすくめた。その動作で跳ねた髪がひょこんと揺れる。
「今ここにいるのは事故に関係してるかもってスタッフ達なんだよ。警察が話を聞きたいとか言って集めてるんだ。僕らはドリームランドからは出られない、鳥カゴの中ってこと」
「あっ、本当ですね……やっぱり仲山さんのいう通りになってる」
滝口美香は周りを見渡しながら、ぼそっと囁いた。
「仲山さんって?」
「あ、いえ。なんか警察の人がそんな風に」
「ふーん、捜査員がね」
あの、と一口飲んだお茶の紙コップを置いて、滝口は宮内に耳打ちする。女子大学生に近づかれて宮内は少し顔を赤らめた。
「宮内さんが追い出される前、システムにはどんな異常があったんですか?」
「あー……ほんとはダメなんだけど、こんな状況だから……」
システム運用部の仕事は機密事項も多いし、滝口さんは別部署だし、アルバイトだし……そんなことを呟きつつも宮内は話し出した。
「実は、事故の予兆なんてなかったんだよ。ドリームアイは何の問題もなく運行してた。ただ、正午になるちょっと前に一度だけ映像が乱れたくらいでね。しかも、ほんの一秒ってとこ」