四 午後……十二時二十五分 警察到着
「今日はクリスマスイヴです、ドリームランドは朝から入場制限がかかるほど大量の客が押し寄せてきているわけで、パーク内は現在混雑を極めています。おそらく来場者の総数は二万人以上になるかと……。これじゃ今夜は帰れそうにないですね」
「だから何だ、さっきのは言葉の綾だ、黙ってやれ」
貝崎が金森に指示を出す。
「その観覧車ジャックだのとタレ込んだ人間も含めた『ドリームアイ』関連の全リストを洗うんだ。観覧車のシステムに精通した専門的技術を有する人間、それからドリームランドに勤務するアルバイト、正社員、その他、パーク外をうろつく不審人物や、不自然な通報などとにかく情報を掻き集めろ」
「はい」
「その数万人の中に犯人がいるつもりでやれ。クリスマス当日までに帰りたいなら老若男女問わず、徹底的に精査しろ」
「わかりました」
「で、その滝口美香とやらは今どこにいる? 観覧車ジャックと証言した女性だ」
「あ、それは、聴取がある旨は伝えていますので、従業員用の食堂に待機させてます。貝崎さんが直接、お話を聞かれますか?」
「ああ」
「それではご案内します」
金森は貝崎に指示された調査を他の警察官に回す段取りをし、その後二人でパーク内の従業員食堂へと足を向けた。
五 午後……十二時四十分 ドリームランド内社員食堂
東京都城南区にあるドリームランドは、テーマパークとしてはかなりの老舗だ。
広さは東京ドーム約二個分、有名なテーマパークとしては小さめの規模である。美しい夜景が見えるが、海風が強く、観光地としての人気は少し弱い。
老朽化した施設は錆びが目立ち、アトラクションやキャラクターショーのレベルもさほど高くはなかった。どこにでもあるメリーゴーランド、コーヒーカップ、大したことのないジェットコースター……。
そんなドリームランドの特徴は、四季折々に咲き誇る美しい花々と、冬期シーズンに広がるイルミネーション、加えて優秀なスタッフ達だ。
そして、この遊園地の運営元は、全国にいくつものビルを保有する大企業『帝国不動産』だった。
親会社の資金力で建設された日本最大級の展望型観覧車『ドリームアイ』が大人気アトラクションとなり、ドリームランドは老舗遊園地として復権を果たした。
そのドリームランド内『愛の台地』から右に逸れて、『宝の洞窟』を抜けた先にあるレンガの壁。そこを横に入ると社員食堂がある。見かけはドリームランドの世界観を取り入れてはいるが、中は至って普通の食堂だった。