四 午後……十二時二十五分 警察到着

恐る恐る言った金森の言葉に、貝崎も同意する。

「確かに不自然だ。で、その乗客の身元は?」

「遺体は損傷が酷く、顔の確認はできません。ただ、ゴンドラ内で財布が燃え残っていました。どうやらこれだけ耐火加工のものだったようで……中から免許証が見つかりました。死亡したうち一人は東京都在住の男性、藤沢太史ふじさわたいしさん、七十二歳だと思われます。今は現場保持に努めていますが、その後は遺体を司法解剖にかけDNA検査で確認を行う予定です」

「藤沢太史?」

貝崎がやや眉をひそめて名前を聞き返す。聞き取りにくかったかと、捜査員はもう一度名前を繰り返した。

「はい、藤沢太史さん、七十二歳です」

「……そうか。親族には連絡したか?」

「いいえ、まだ連絡が取れない状況です。一応捜査員を自宅周辺に向かわせていますが」

「しかし、最近の老人は元気だな。クリスマスイヴに人気観覧車とは……」

「思い出の場所とかですかねぇ」

「まあ、死んだものは死んだんだ。それは過ぎたことだ。他には?」

「特段の情報ではないのですが、『花の祭壇さいだん』という観覧車付近の花壇で、遊園地のキャラクターの着ぐるみが脱ぎ捨ててあるのが見つかりまして」

「そりゃ、中身はこの混乱で逃げ出したんだろう。子どもの夢を壊さないよう、脱いでからな。そっちはどうでもいいだろう、時間の無駄だ。そういえば、落ちたのはシルバーゴンドラとかいう話だが、これは必ず高齢者が乗るものなのか? 何かゴンドラに特徴が?」

「いいえ、シルバーゴンドラだからといって、ゴンドラの仕様に特別の違いはないようです。その列に該当する高齢者がいれば乗れるというもので、もしいなければ他の誰でも乗れるようですね。ただ高齢者がシルバーゴンドラに乗った場合には二周回れるという特典が」

「なるほど、なるほど。子どもが遊ぶ夢の国を、高齢社会のビジネスに対応させたいい例だ。で、現時点で死者は二名。現状、事故と判断せざるを得ない。他には何がある?」

「それが貝崎さん、現場に行かせた警察官がさっき緊急で戻ってきまして。この『ドリームアイ』の乗客を誘導する担当係員が妙なことを言っていたそうなんですよ。滝口美香さんという大学生なんですが」

「滝口美香」

貝崎はその名前を自分の口の中で繰り返した。