「ドリームアイ運営局の人間か。で、なんと?」

ポケットに手を入れて顎をくいっと上げる貝崎に対し、報告者の金森はますます背を丸めた。猫背が他の捜査員の印象に残る。

「彼女は、これは計画的殺人だと言ったそうなんです」

「ほう……根拠はあるんだろうな?」

貝崎に睨まれ、金森は首を縮める。

「いやいや……あくまでも素人の言い分です。『ドリームアイ』のゴンドラに乗っている乗客の一人と連絡が取れたそうで、それによると既に犯人から入電があり、故意にゴンドラは落とされたと言っています」

「何だそれは。パニックを起こしているだけじゃないか?」

「はい、信憑性には欠けています。ただ、彼女は終いには、この一連の事故は観覧車ジャックだとか言い出したんですよ」

「観覧車ジャック? 聞いたこともないな」

「ええ、そうです。世界最大級とはいえ展望型観覧車をジャックしてどんな目的があるのやら、と、私達にも理解できません。そもそも観覧車なんて、確かに高度な技術力ではありますが、どこまでいっても結局テーマパークにある乗り物の一つです」

ふむ、と貝崎は安物のパイプ椅子に座って高く組んでいた足を入れ替えた。

「ニュースで聞いただけだが、この『ドリームアイ』建設には政府も多く噛んでいるとか。海外からの観光客の増加を含めた経済効果の向上を目指すって目的と、建築の工程全てをメイドインジャパンに拘り、技術力を世界にアピールするという名目だとさ。日本のランドマークの一つとして取り上げられるほど注目されているらしいが、よくもそこまで金が集まったもんだな」

「ってことは、その日本の技術力の欠陥を示すためのサイバーテロだと? 海外からの計画的な攻撃かもしれないということでしょうか」

「一つの可能性だ。今はどれもこれもコンピューター制御だからな、それくらいの規模だという意味だ。まあもし事故じゃなくて事件なら、の話だが」

貝崎は内ポケットから煙草を取り出した。ステンレス製のライターの火は冷たい風でなかなか点かない。分厚い手で覆いながら何度もライターを鳴らす。

「いいか? 金森。ここドリームランドは入場時に顔認証システムを導入しているんだろう? 来場時、ここの全員が顔写真を撮影してるはずだ、そのデータを全て洗い出せ。死亡した老人のものも、免許証の顔写真と照合すればはっきりするはずだ」

「全来場者分ですか……」

金森が難しい表情で呟く。

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