「その映像っていうのは、防犯カメラですか?」
「いや、そっちじゃない。僕らしか見ることができない運行制御システムの画面だよ」
「え。それってハッキング?」
滝口が大きめの声で口にしたことで周囲は少しざわついた。それにハッとして彼女は顔を伏せる。
「まあ、もちろん僕もそう思った。うちのセキュリティシステムは相当なものだけど、過信してるつもりはないよ。そもそも、破れないセキュリティなんてないからね。それで、すぐにログを辿ってみたんだけど、外部から侵入された形跡はなかったんだ」
「そうなんですか、私はそういうの全然わからないんですけど。その痕跡ってのは絶対に見つかるものなんですか? ないってこともあるんじゃ……」
「いや、ログは絶対に残るはずだ、ただ一つの方法を除いてはね」
「それって……?」
「ハッキングの場合、管理システムにアクセスするのは膨大な作業になるからさ。だから逆に、ログが残るまでには最低でも一秒かかる。その間に侵入すれば可能っちゃ可能だね」
「ええと、一秒で中枢の運行システムにログインするなんて、できませんよね」
「そういうこと。そんな天才的なハッカーがいるなら会ってみたいもんだ。だから不可能なんだよ。でも、異変はその画面の乱れだけなのに、しばらくしたらシステムが全く反応しなくなった。
ドリームアイは僕らを管理者として認識しなくなったんだ。つまり、ドリームアイは誰かに操られてる。しかも完璧に。だからその人物は、今世界でただ一人、巨大観覧車を思いのままにできるってこと」
「そんな……じゃあ、乗っている皆さんは……?」
滝口は片手で口を覆った。
「まあでも、ここからが重要な話だ。その人間……というか犯人がいるならさ。システムを乗っ取っても、できることは結局二つだけだ。ドリームアイを動かすことと、止めること」
宮内は腕を組み直すとため息をついた。何がしたいんだろうねえ、その場合、と呟く。
滝口は、宮内の言っている意味を理解して問い返した。
「え? だったら、どうやってゴンドラを落としたんですか?」