すると、その声に呼応するように多くの社員が入り口付近に集まりだし、にやにやしながら大神社長から詰問されている渉太郎の様子を興味津々に探っていることがうかがわれた。

「なぜだ!」の質問になんと答えたかはよく覚えていない。うまく説明できなかったことだけは自分でもはっきり分かっていた。

大神社長が去った後に、説明資料をもう一度念入りに読み直してみた。分厚いファイルを探る手が失態の余波のためか思うように動かなかった。ページをめくる手の震えが止まらずにいた。

字面を乾いた心で必死に追った。ノイズという表現は資料には一切なかった。それでも暗いバックヤードで目を凝らした。「あっ」と自分に叫んだ。

そこには、「バッテリーの消耗により、ごく稀に再生時に不正音の発生につながることもある」と付記されていた。読み終えてぶるぶると身体が震え、次第に身体が硬直してきた。

十分な知識が頭に入っていなかったため、お客様に説明する前に社長の逆鱗に触れてしまった。社長から指摘を受けることで、大事に至らず本当に良かったと思った。

胸のつかえがおりて多少なりとも気が晴れたと思っていたところに、説明会場の入り口から渉太郎めがけて飛ぶ勢いで事業本部長が突然現れた。蒼白な顔を突き出し、

「すぐに鹿野田副社長のところに行ってくれ。とにかく行けば分かる」

事業本部長は息せき切って渉太郎を睨みつけながら言い放った。

「分かりました。すぐに伺います」

大神社長の前での失態に、気落ちしていた渉太郎には力なく答えるしかなかった。

ホテルに待機していた各事業部を巡回する社内バスを待つ間、社長の「なぜだ!」の声が身体中を締めつけた。もしかすると会社をクビになるかもしれないとの不安が一瞬脳裏をよぎった。

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