俺なれば……古河公方、山内上杉家、扇谷上杉家に北条家が巨大となり手がつけられなくなる前に、力を合わせ討つ事の必要性、緊急性を説き、三家を纏め大軍をもって、まず、豊島郡石浜を手に入れる……と源五郎は考える。
石浜宗泉寺付近は江戸湾交易圏と関東内陸部を結ぶ河川物流の起点となる地域であり、この地を抑えれば、北条の内陸拠点は河川物流による物資支援が受け難くなるからである。
まずは兵糧や物資を干上がらせ、戦をするに困難な状態を北条家に作り出す……。
そして兵の士気が落ちた頃、葛西城より江戸城へと攻め上がればよい。
俺は兄上の一部将として、太田の名を再び高めんが為、この戦国の世に打って出る。
戦功を挙げていけば、兄上も俺の事を認めてくれるようになるだろう……。
いがみ合ってはいるが、そこは母は違えど血を分けた兄弟である。
手を携え、この戦国の世を共に渡っていく……。
それが源五郎の思い描く儚い夢であり、構想であった。
そんな、つき丸をあやしながら深く沈思する源五郎に、突如兄資顕から呼び出しがかかった。
刹那の思考を引きずり、兄との確執の氷解を微かに願いながら居室に赴くと、そこには久しぶりに見る父資頼の顔と、渋皮を舐めたような顔の資顕が並んで座しており、蒸し暑い部屋には並々ならぬ空気が漂っている。
異様な雰囲気の二人を前に源五郎は座した。
資顕が父資頼と目を合わせ微かに頷くと、おもむろに話し出した。
「おぬしに話があって、来てもらった」
ただならぬ空気に源五郎は二人を見比べる。
「おぬしも知っていよう……今、我ら太田家は難しい立場に立たされておる」
源五郎は黙って聞いている。
「いたしかたなき事だったとはいえ、一時扇谷上杉家を離れ北条につき、帰参出来たものの今度はその北条の矢面に立たされておる。今太田家に大事な事は、扇谷上杉家と固く結びつき、強い信頼関係を築く事である。その為……」
その後に続く言葉に、源五郎は耳を疑った。
「おぬしに難波田(なんばた)の家へ婿養子に行ってもらう」
「何故……」何とか絞り出した声はかすれていた。
「扇谷上杉家の家宰である難波田家と結びつく事で、太田の家を安泰にする為である」
用意していた言葉なのだろう、資顕は凜然と言い放った。