結局これはバスのナンバーだったのだが、このやり取りを何回か繰り返した後、その人はバス乗り場まで一緒に行ってくれ、周りの人にエカテリーナ行きのバスに乗せてやってくれと頼んでくれた。わざわざ駅の反対側まで来てくれて。

周りの人もバスが来るとこれだこれだと言って一斉に教えてくれた。一緒に乗った人は次で降りろ、さあここだというように絶対間違えることがないようにとても親切だった。こういううれしいことがあるから一人旅はやめられない。きれいな観光名所よりこういうことの方が思い出に残ったりする。

8月28日

日本に帰るモスクワの空港で、行きに、チケットを先に買ってみてくれた親切な方にゲートのところでまた会えた。楽しかった思い出話が終わると、互いの仕事の話になった。物理の研究をしているというので、失礼にも、「物理って、何が楽しいのですか」と聞いてみた。

答えにくいだろうと思っていると、「自分が予測したことが、本当だったらうれしいでしょ」と、間髪入れずに答えてくれた。あまり意味はわからなかったが、うれしいんだろうなとは思った。

しかし、旅行から帰った後のメールのやり取りでひょんなことから、その方の本を送っていただき、何回も読み返してその意味がわかった。自分の生きている世界がどんなものかも考えず、まったく知らないままに生活している自分に衝撃を受けた。

4次元の世界に生きているとばかり思っていたのに、突然11次元以上でした、と言われたような気分だ。それを理解しようと参考書を手に取るが、理解が深まるどころか、読めば読むほど知らないことのオンパレードで、ネットで調べれば素粒子が宇宙へとつながっていく。

行ったことがないところに行きたい、見たことがないものを見てみたいという思いで旅行をしているが、このロシアの旅で自分の知らないことが世の中にはたくさんあることを思い知った。自分の生きているこの世界を少しでも理解したいと思った。

【前回の記事を読む】サンティアゴ巡礼で厳かなミサに感動。今まで知らなかった世界を知る旅