ゆらゆら揺れる親子ブランコの中で、アイスひとつでそんなたくさんの思い出がよぎるくらい、季節を通して僕とだいちゃんは多くの時間を一緒に過ごしてきた。

ふと、向かいに座るだいちゃんとの膝の高さの違いを感じて、だいちゃん、また体が成長したなぁと思った。なんならこの親子ブランコも、だいちゃんの方にずんと傾いでいる。

こんな小さな空間の中にいると、体格の違いを嫌というほど感じてしまうが、そんな些細な心の動揺を押し隠すくらいの術はもう僕にも身に付いていた。

四月生まれのだいちゃんは早生まれの僕とほぼほぼ一年の差があって、体の成長が追いつかないというのは否めないのだ。

だけど本音を言えば、三月になんて生まれたくなかった。お母さんは子供を産むなら早生まれがいい、学校の勉強を一年早く始めさせられるから、といいことみたいに言うけど、当の子供にしてみたら、いらないコンプレックスを抱えさせられて迷惑な話だった。

飛び級制度のある海外の学校に通うIQの高い子供は、勉強は出来ても、体育や図工といった実技の時間ではものすごく苦労しているのだと聞いたことがある。大人と子供みたいな体格の差は、僕のような年頃の男子には、過酷な現実だった。

年頃、そう、ただ一緒にいるだけで楽しかった友達との時間に余計なことを時々思うようになったのは、僕がそういう「お年頃」だからなんだろう。

「で、そん時、織田先輩がな」

だいちゃんのもっぱらの話題は、野球と織田先輩、と決まっていた。一学年上の織田先輩は野球部の部長の他に生徒会長を務めていて、エースで四番で、格好いいし、成績も優秀だし、親は市議会議員でPTA会長で、という、もう今から将来を約束されているような誰から見ても完璧な人だった。

だいちゃんは野球部でその織田先輩と平良先生に期待され、可愛がられていた。織田先輩が大好きで、彼氏の自慢をする女子みたいに織田先輩の話をする時のだいちゃんはちょっと可愛い。

でも、いつまでも織田先輩の話を止めない最近のだいちゃんを見ていて、内心で僕は少しずつ心配になっていた。そっとだいちゃんの顔を見た僕の様子に気付くことなく、だいちゃんは夢中で織田先輩の話をしていた。

だいちゃんは昔から、まっすぐな子だった。何かに夢中になると、一心にそこに向かっていく集中力はたいしたもので、いつも何かを追いかけていないとだめな子だった。そしてそれが、たしかにだいちゃんの大きな力になっていた。

【前回の記事を読む】中学にあがってから、親友との距離が離れていくような気がした…。