曽我兄弟、継父の元で育つ 兄九歳・弟七歳

「何をおっしゃいます、兄様。わたくし共も、いつも離れることなく一緒に帰るではありませんか……。なんで鳥などうらやましかろう」

聞いて、一萬は首を振った。

「そうではない。雁という鳥は、家族揃って国から国へ渡ると聞いている……。あの五つの雁は、先に飛ぶは父、後は母。中の三つは子供であろう。親子揃うた雁が、この一萬にはうらやましい。そなたは弟、我は兄。母は真の母であるが、曽我殿は真の父ではない。母上はいらしても、お側にいることは叶わぬ。物言わぬ畜生すら親子揃い共に飛ぶのに、人と産まれた我らは兄弟二人きり。それを思って嘆くのだ」

「兄様よ……。兄様は悲しいことをおっしゃる。そう聞くと、箱王も雁がうらやましい」

兄の言葉に、箱王も声を詰まらせた。

二人はしばらく、手に手を取り合って慰め合っていたが――女の召使がこの様子を見て、激しい勢いで叱り飛ばした。

「またそのように泣いているのですか、殿ばららしくもない! しかも、日も暮れたというのに、まだ外へ出て遊んでいるなんて! さっさと中に入りなさい。母御前(ごぜ)に言いつけますよ!」

また折檻される――と縮み上がった兄弟は、慌てて門の外の暗がりへ逃げ出した。周囲を見渡し、周りが真っ暗で二人きりなのを確認してから、ようやく安心する。

「兄様、我らが鳥すらうらやましいと思うのも、このように家人にすら侮られるのも、元はと言えば……」

一萬が頷くと、箱王はキッとなって叫んだ。

「兄様! 我らがいつか成長したら、工藤祐経をきっと生かしてはおかない。必ず――」「シッ、うるさい。人が聞く。おだまり、箱王。声が大きいぞ」

兄はあたりをはばかって、慌てて弟の口を手で塞ごうとしたが、弟はそれを振り払っていきり立った。

「誰が聞こうと構いません! 仇を射殺すのも斬り倒すのも、こそこそ隠して叶うものですか!」