2018年8月29日水曜日
朝が来た。
看守長がやって来て、
「少しは眠れましたか?」
と気遣ってくれた。
この人は、収監者の誰に対しても、丁寧な言葉や態度で接している。
これまでの人生では接点のなかった人達……一緒に収監されている者達、看守達……孤独と不安で言い知れない恐怖の中にいたその時の自分には、それまで接してきた社会の人間の大半より、はるかに救いとなった。
朝食が済むと、取り調べに呼ばれた。
ベテランの入れ墨が、
「大丈夫や、何かの間違いやし、兄ちゃんは、すぐ釈放や!」
と、明るく励ましてくれた。
その時、僕はよほど青ざめた顔をしていたのだろう。
大麻の若者は、
「オレ、薬物の取り調べは受けたことあるし平気や、代わりに行ったげてもええよ」
と、気休めなのか本気なのかもわからない、無邪気なまなざしで、うな垂れている僕を覗き込むようにして、声をかけてくれた。
2人とも、何て優しいんや!
また泣きそうになった。
初めての取り調べ体験。
捜査官は2名、いずれも、家宅捜索の時にもいた人物だ。
1人は、近畿厚生局麻薬捜査課(キンマと呼ぶらしい)所属の、あの、インパクトが強くて張り込み時から印象に残っていた、黒ランニングシャツに金ネックレスの中年男性だ。
頭は丸刈り、見るからに怖い。
DEA(米国麻薬取締局)のロゴバッヂを付けている。ファッションのようだが、これに憧れて、この職に就いたのだろう。わかりやすい。
もう1人は、大阪税関麻薬取締捜査官で、真面目な学生風だ。
ナチュラルなヘアスタイルに、黒縁眼鏡、白い半袖のワイシャツ姿で、物腰も静かで丁寧だ。
刑事ドラマで見る[脅し役]と[なだめ役]なのだろうか?