弁護士は接見できるそうだが、たいていの人間は、全くの青天の霹靂の事態に、すぐに弁護士を見つけて委任し、呼ぶことなど難しいだろう。

突然の人生の暗転に、助けとなる誰とも、会うことも相談することもできないというこの司法システムそのものが、もはや拷問の始まりのように思えた。

僕の前に、2名の先客がいた。

1人は、入れ墨のある中年男性、もう1人は、大麻所持で逮捕されたという20歳そこそこの若者だ。

入れ墨の男性は、ベテランらしく、

「兄ちゃん、何やったんや?」

と、気さくに声をかけてきた。

事情を話すと、

「そんなん有りかいな。初犯で前科もないんやろ。こんなんでいきなり逮捕なんて、ワシでも聞いたことないなぁ。そら辛いやろ、大変やなぁ」

と、いたく同情してくれた。

若者は、先輩の話に素直に相槌を打ちながら、

「へーお兄さん、お医者さんなんか、頭いいんやなぁ」

と、気恥ずかしいほど感心してくれた。

僕は、人間関係で悩み多い人生を送ってきたが、この時、これまで関わってきた人達の多くより、目の前の2人の方が、人情味ある真っ当な人間のように感じられた。