3│バーカー語録( 著書『The Best Start in Life』より)

バーカーのタイトルは、やや象徴的なものですが、日本語訳はストレートに本の主題を掲げる衝撃的なタイトルです。この本の中には、多くの驚異的な事実が述べられていますが、ここに「バーカー語録」として、その一部を紹介します。

│1│

女王バチと働きバチは、遺伝的に全く同じだ。成長期に与えられた食べ物の違いが、その後の役割を決定づける。女王バチになる幼虫には、ビタミン類やタンパク質、脂肪が豊富なローヤルゼリーがふんだんに与えられる。

一方、働きバチ候補の幼虫がもらえるのは中身の薄いワーカーゼリーで、しかも回数が少ない。ハチの運命を決定するのは、遺伝子ではなく、食べものなのである。ローヤルゼリーとワーカーゼリーはそれぞれ異なる遺伝子のスイッチを入れる。

筆者コメント

ローヤルゼリーという特殊な食餌をすることによって、遺伝子にエピジェネティックな変化が起こり、女王バチになります。働きバチの食餌は採集した蜂蜜ですが、ローヤルゼリーは、働きバチの側頭部の下咽頭腺から分泌される特殊な食べ物で、核となる主成分はロイヤラクチンです。これは日本人の研究者が発見した物質なのです(注1(コラム2「女王蜂とローヤルゼリー」参照)

│2│

遺伝子は自動機械のように、ひとりで動き出してタンパク質を作り始めるのではない。私たちの持つ遺伝子のほとんどは、黙りこくってじっとしている。活動を開始するかどうかは、体内で起こる他の変化にかかっている。

筆者コメント

これは、先に述べたエピジェネティクスの本質を示しています。エピジェネティクスを説明するために、わかりやすい例を示します。

私たちが、がんにならないのは、発がんを抑制する遺伝子があるからです。ある時、何らかの発がん刺激作用を受け、抑制遺伝子にメチル化が起こり、この遺伝子の働きが失われます。ここで発がんのスイッチが入り、正常な細胞ががん細胞に変化し、勝手に増殖を始めます。

すなわち、DNA配列には変化がないまま、メチル基がつく(化学修飾)ことによって、遺伝子が動き出すのです。いろいろな食物、薬物、刺激などが、このスイッチを入れる役割を持っています。

│3│

受精卵というたった一個の細胞から始まって、42サイクルの細胞分裂をくぐり抜ける間に、胎児、赤ん坊へと育っていく。しかし、生まれてからは、たった5サイクルの細胞分裂で赤ん坊から大人になる。

人体の発達は、誕生前にだいたい終わっており、その後は限られた変化しか起こせない。この世に二つとない私たちの個性は、生まれる前にほとんど確立されている。それは、私たちが持つ遺伝子と、母親が胎児に与える環境の相互作用で形作られていく。