翌日、出勤の早い竹村に合わせて出社した。竹村を呼び止めると、頼みたい急ぎの仕事があると言って会議室に案内した。疑わしそうにしていたが、テーブルをはさんで対座した。
すかさずテーブルの下から合わせた人差指を向けると、弓を持った武者がいる。戦闘準備OK状態になっている。十二単の女性を呼び出すか、お姫様より格下、そう侍従を呼び出せればと考えたが、どうすればいいか悩んだ。
時間はない。後、五分ぐらいで続々と他の社員たちが入ってくる。
(どうする太郎。神仙老人、どうしたらいいでしょうか?)
頭をフル回転させた。
「松岡さん、頼みたい仕事って何ですか? 早く指示して下さい。皆さん来られますよ。私、変に誤解されるの、いやですから」
透視すると、武者が弓を引く体勢になっている。
(ちょっと待て! 標的は、俺じゃないだろう)
ひらめきもなく、ただ言葉が飛び出た。
「あのう、実は急ぎの仕事って言うのはうそです。申し訳ない。本当は、女性の間でのトラブルのことなんだ。見ていてあまりいい感じがしないから、竹村さんの本音が聞きたくて」
「そうなんだ。松岡さんって、私の味方をしてくれるの?」
笑顔の竹村が目の前にいた。
「いや、味方とかじゃなくて、自然解消すればいいなと思って。竹村さんも会社いる間、気が張っていて疲れるでしょ? 会社帰りに一人でコーヒーでも飲んでホッとしないと、身が持たないなんて思うんじゃないかな?」
この前の見たままを話していた。
「松岡さん、よく分かりますね。ほんとは、辛いんです。私だけ仲間はずれにされて、ちょっとしたミスでもいや味たらしくつついてくるんです。どうしたら、松岡さんの言うような自然解消ができるんですか?」
竹村は俺のことを少し信用し始めたようだ。真剣な目をしている。
「えーと、そうしたら、ちょっと、こう思ってみて。『笹原さん、参りました。私は笹原さんと争うつもりはありません。降参です』って、思うだけでいいから」
思い浮かんだことを一気にしゃべりきった。竹村はキョトンとしている。