また、透析治療を受けながら、高校や看護学校、一人暮らし、就職、結婚などさまざまなライフイベントを経験してきた。その間、病気や治療が原因で、何度も悔しさややるせなさを感じ心が折れそうな日があった。でもその都度、誰かの「ことば」に支えられてきたように思うし、むしろラッキーな人生だと思う。

私は現在、看護師の中でも日本看護協会が認定している慢性疾患看護専門看護師という資格を取得し、慢性疾患(治ることが難しい病気を持っている人)を持っておられる方やそのご家族とお話をさせて頂く機会が多くある。

患者さんの中には、治らない病気と付き合っていくことへの辛さや苦悩、絶望感を話される方もいる。その時、看護師としてはその苦悩を少しでも軽減するように努めている。

ただその一方で、一患者としては、病気があることは辛いし苦しいけれど、決して不幸じゃないんだと感じてほしいと願っている。

病気を患っているだけでは「病人」、治療を受ける中で医療・看護を受け、さらに医療者との関係が生まれて初めて「患者」になるといわれている。私は看護師として働く中で、病気を自らの全てであると考え、自分をマイナスに捉えすぎて人生を楽しむことを諦めている患者さんを見てきた。

一方で、病気があることは自分のごく一部であり、その中でも人生を楽しもうと今までの趣味を続けたり、新たな楽しみを見つけチャレンジしている患者さんとも出会ってきた。

また私自身を振り返ると、病気があることをマイナスに考え落ち込むこともあれば、病気を頭の片隅に置きつつも学生生活や仕事を楽しんでいる自分がいた。それは医療者との関わり、医療者の「ことば」が大きな影響を与えているからであった。

私は医療者と患者の両方の立場を経験することで、病人とは医療者の関わりひとつで、ことばひとつで、患者にも“ひと”にもなるのではないかと考えるようになった。

この本を同じ慢性腎臓病を持っておられる人やそのご家族だけでなく、医療関係者の方に読んで頂きたい。病気を持ちながら生きることは不都合や煩わしさはあるが、決して不幸ではないと信じている。

でも、前向きになったり、一歩踏み出そうと思えるのは、自分一人では難しく、医療者のことばが背中を押してくれることが多い。「そんなことばに、出会っていない」「特別な声なんかかけていない」と思われる患者さんや医療者がおられると思う。ただ、それはあなたがまだ気づいていないか、まだ出会っていないだけではないだろうか。

私たちの世界は、多くのことばで彩られている。私の体験が、出会ったことばが、ほんの少しだけみなさんの心に何らかの形で響けばうれしい。