五 固有植物の可憐な花 1 花々を探して出合えた喜び
手もとに、『FLORA OF BONIN IS.(小笠原植物図譜)』という分厚く重さ一㎏近い手のひらサイズの高価な本が二冊あります。一冊は赴任中、山歩きの際、常にザックに入れ持ち歩き、花などを観れば直ちに取り出して確認していました。
このため、大分傷んでテープで修復などしていたのですが、二回目の赴任に当たっては新たに購入することになって、山歩き用と机上での確認用にと使い分けていました。今、その本のページを開いてみると、改めて小笠原の自然の素晴らしさが実感として込み上げてきます。それと同時にある植物の花を求め歩いた情景が想い出されてくるのです。
それは、最後まで確認出来なかった「オガサワラグミ」の花です。通常であれば年一回、花を咲かせてくれるのですが、赴任中ついに見つけることは出来ませんでした。また、「オオハマギキョウ」も観たいという願望だけで終わってしまいました。
観賞用としては、東京都亜熱帯農業センターの展示室などで確認していたのですが、「あの斜面に今、咲いていますよ!」と教えられても見つけられず、訪島時期が悪かったのか自生している東島(父島)、向島(母島)などでも花を確認出来ませんでした。
一方で、黄金色に輝く幻想的な花「シマウツボ」の群生している状況、また、知人と山の中を分け入って探しに探してやっとの想いで辿り着き、わずか一輪だけ確認出来た「ムニンフトモモ」の花、その花が風に揺れる姿を眼前にした時の感動は、脳裏に焼き付いて、今も忘れられないものとなっています。現在、「ムニンフトモモ」の花は、その後の増殖計画で、父島・中央山の遊歩道脇で間近に観られるようになっています。