【前回の記事を読む】「毎日が勉強だ、がんばれ真知子」初仕事でのミスをバネに一念発起!
がんばれ、新人添乗員
そして初添乗終了
それから十日後、全行程を終え、旅行は大きな事故もなく無事終了した。旅行中にメンバー同士のカップルも何組かできたようである。羽田空港の税関を出たところで全員集合。
ハワイで免税品やパイナップルを買ったメンバーも多く、荷物は山のようだ。ゲート外に迎えが来ていないか探している人、別れを惜しんで話し込んでいる人などそれぞれだが、初めての海外旅行を無事終えたという安堵感と満足感が伝わってくるのがうれしい。彼らにとって真知子の添乗員としての仕事は役に立ったのだろうか。初添乗のため十分とはいえないが、細部にわたるまで注意を払い、誠意を持って対応してきたことだけは自信を持って言える。
「皆さん、どうもお疲れ様でした。まだ、ご自宅まで飛行機を乗り継いで帰られる方もいるかと思います。道中気をつけてお帰りください」
松井の最後のあいさつとともに、学生たちはそれぞれの帰途についた。空港には、東京近隣在住の学生の家族が迎えに来ている。久しぶりの再会に笑顔が溢れている。
松井と真知子は皆が帰ったのを確かめたあと、大阪行きの便に乗り継ぐため国内線チェックインカウンターへ。さすがに疲れが出たのか、機内では二人ともグッスリ眠り込んでいた。
伊丹空港で松井と別れ、真知子はタクシーで自宅へ向かった。タクシーの窓から流れる風景を見ていると、ようやく終わったんだという実感が湧いてきた。添乗中は気が張っていたからであろうか、睡眠時間が少なくても苦にならなかったが、今はまず、ゆっくり眠りたいと思った。
添乗員の仕事は、外から見ているよりも想像以上に大変だった。できていて当たり前のことを保つための準備を丁寧にすること、言い換えれば顧客満足度を高めるための陰の仕事人といった役割だろうか。今回は松井支店長のサポートで、とにかく新人初添乗を何とか切り抜けることができた。まだまだ至らない点が多いが、先輩たちのようにベテラン添乗員を目指してこれからがんばろうと心に誓った。
真知子は添乗での評判も良く、お手並み拝見と言っていた谷山先輩からもミスはあったものの何とか認められほっとしていた。帰国後は社内でも先輩たちの仲間に入れるようになり、居心地が少し良くなった。毎日過ごす職場の雰囲気が良いのが一番。まだまだ新米社員であるので覚えなければいけないこともいっぱいある。
添乗員としても、社員としても、はじめの一歩がクリアできたばかりである。これからもきっと、山あり谷ありの仕事が待ち受けていることだろう。真知子は、気持ちを新たに次のステップへと足を踏み出した。
「山田さん、次の添乗の打ち合わせが始まるわよ」
と三田先輩の声。
「はい、今行きます」
溌剌とした真知子の声がオフィスに響いた。