【前回の記事を読む】新人添乗員にピンチ到来!「僕のスーツケースがありません」

がんばれ、新人添乗員

スーツケースはどこだ

真知子は初めてのミスに真っ青になりながらも、ホテルに電話で問い合わせた。幸い、ロビーの片隅に伊藤のスーツケースが残っていた。

「支店長、ロビーにありました」

「そうか、とにかく紛失してなくてよかった。今からすぐ伊藤さんと一緒にタクシーでホテルに戻り、取ってきなさい。そうだ。この便に間に合わないことも考えられるので、二人のチケットを渡しておきます。我々は予定通りバッファローに行きますので、あとの便を探して追いかけてきなさい。ホテルは分かっているね」

「はい、大丈夫です」

真知子は急いで伊藤のところに戻り、スーツケースが見つかったことを話し、伊藤とともにタクシーでホテルに戻った。

無事にスーツケースがあったからよかったものの、もしなくなっていたらお客様の楽しい旅を台無しにするところだった。添乗員の仕事は、何につけても確認を怠ってはならないというのが鉄則だ。ダラスで問題なかったから大丈夫だろうと思ったことが、無意識のうちに気のゆるみになっていたのだろう。

真知子は明日からは絶対確認、確認の基本を忘れないようにしようと気持ちを引き締めた。お客様や上司に対してはしっかりとした顔で接してはいるものの、新人であるが故の不安や心配が常に心に渦巻いている。

「毎日が勉強だ、がんばれ真知子」と自分にはっぱをかける。

ホテルのコンシェルジェからスーツケースを受け取ると急いで空港に向かったが、予定の便は既に滑走路に出ており、乗ることはできなかった。

予約を取っているわけではないので空席を探すことになる。同じ航空会社であるとも限らない。なるべく早い便を見つけるしかない。直行便がなければどこかで乗り継ぐことにもなる。顧客に不安を与えないよう落ち着いて対応しなければと気持ちは焦るが、とにかくできることをやるしかない。

「伊藤さん。皆さんとは一緒の便には乗れませんでしたので、次の便を探します。カウンターまで、一緒に来ていただけますか」

「すみません、僕が確認しなかったためにご迷惑をかけて」

「いいえ、私が最後に確認しなかったのが悪いのです。こちらこそすみません」

バッファロー行きの便はそう多くないが、他の航空会社で二時間後の便の席が取れた。しばらくロビーで待ったあと、無事出発。機内に座ったときはほっとした。到着後はタクシーで今夜泊まるホテルまで行き、ようやく皆と合流できたのであった。