結婚のカタチ

ホームから改札口を出る。日差しがまぶしい。

時刻はまだ四時を回ったばかりだ。美紀は、駅前のロータリーの左側にあるアーケード街に向かった。道の両側には、昔ながらの商店が所狭しと並んでいて活気がある。

大手スーパーやショッピングセンターの進出で地元の商店街が次第にさびれていくところが多いが、ここは結構頑張っているほうだろう。どうやら世代交代がうまくいっているらしい。もちろん中にはチェーン店に変わっているところもあるが、うまく共存共栄しているのが微笑ましい。

美紀は中ほどにある小さなスーパーで夕食の食材を買ってから、アーケード街を通り抜けた。ほどなく右手にあるコンビニの角を曲がり、少し行くと、左前方にグリーンの八階建ての建物が見える。そこが、数年前から美紀が住んでいるマンションだ。

駅から五分以内というのが気に入っている。商店街から近いにもかかわらず、道一本入ると、静かな住宅街である。マンションは落ち着いたアイボリーのフェンスに囲まれている。門をくぐると、建物までの歩道の脇には丸い花壇があり、色とりどりの花が出迎えてくれる。花壇は花好きの住民有志がサークルを作り、毎日のように手入れをしている。四季折々に美しい花を楽しめるので、美紀のお気に入りスポットである。

今日は仕事が早番だったので、明るいうちに帰宅できた。いつものように花壇を見ながらエントランスに向かって歩いていると、このマンションで一番高齢の山本さんが花壇で水やりをしていた。

「こんにちは、山本さん」

美紀は少し耳の遠い山本のために、大きな声で話しかけた。

「あら、お帰りなさい。今日は、早番なのね」

「ええ、そうなんです。山本さん、毎日水やりご苦労様です」

「私にとっては花が子どものようで、水をやって元気になるのを見るのが楽しみなのよ。この夏は暑かったから、花たちも萎れて可哀そうだったわ」

「私たちだって熱中症になるほど暑かったのですもの、仕方ないですよね」

「まあ、ようやく暑さも峠を越えたようでほっとしていますよ」

と言いながら、山本さんは水やりに余念がない。

「そうそう。来週土曜日にラウンドカフェがあるそうよ。いらっしゃいませんか」