「三好中納言さま……えっ、関白秀次ひでつぐさまでございますか?」

わたくしは思わず息を呑んだ。関白秀次さまに処刑を免れた娘が残っていた……。左衛門佐どのの側室になって、二人もお子をもうけ、しかもその一人が男子とは。わたくしは呆然として重綱さまを見つめた。

よくぞ逃れることができたものよ。わたくしは母と子をこの腕に抱きしめたいほどに、愛おしい気持ちがこみ上げてきた。

駒姫こまひめでさえ処刑を免れることはできなかったのだ。駒姫は山形から京に着いたばかりの、最上義光もがみよしみつどのの娘御だった。関白秀次さまとは顔も合わせていない十五歳。絶世の美女という評判が裏目に出た。関白秀次さまから側室にと声がかかったのは駒姫が八歳のときだったという。辞退を重ねることもできず、せめて十五歳まで、と待ってもらっての上洛であったらしい。

最上家の京屋敷に落ち着いて間もなく、秀次さま切腹の報せが届いたという。駒姫は関白秀次さまの一族として捕らえられた。父最上義光どのはもちろんのこと、淀どのからさえも助命嘆願が出されたというが、すべては退けられ、一族三十八人と共に三条河原で首を討たれのだ。それほどに網の目は小さかったが、それでもくぐりぬけて生き残った者がいた。

「よくぞ逃げおおせましたなあ……」

「今のところは大丈夫だ。左衛門佐どのはほんに行き届いたおひとよのう。その親子を誰に頼めば一番安心できるか考えてみよ」

わたくしにはまるで見当がつかず、首をひねるばかりだった。

「落城前に太閤殿下の姉上のところに避難させたそうだ」

「あっ、関白秀次さまの母御ですね。まあっ、なんっと」

太閤殿下の姉であり関白秀次さまの母である、瑞龍院日秀尼ずいりゅういんにっしゅうにのもとに送ったというのである。大坂城落城後に、姉の嫁ぎ先の梅小路家に移って身二つになったということだった。嫁いでいる姉がいたのだ。それだけでわたしはほっと肩の荷を降ろした気持ちになった。

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